《賀の物名》

ちまき 大江千里

のちまきのおくれておふるなへなれとあたにはならぬたのみとそきく (467)

後撒きの遅れて生ふる苗なれど徒にはならぬたのみとぞ聞く

「後で撒いて遅れて生える苗だけれど、空しくはならない『たのみ』となると聞いている。」

「(苗)なれど」の「なれ」は、断定の助動詞「なり」の已然形。「ど」は接続助詞で逆接を表す。「(なら)ぬ」は、打消の助動詞「ず」の連体形。「たのみ」には、「頼み」と「田の実(=稲)」が掛かっている。「ぞ」は、係助詞で強調を表し係り結びとして働き文末を連体形にする。「聞く」は、四段活用の動詞「聞く」の連体形。
後で撒いので遅れて生えた苗ですが、ちゃんと成長して、田の実(稲)になりますよ。頼りになると聞いています。同じように、遅れて誕生された男の子も立派に成長されて、頼りになることでしょう。大丈夫ですよ。
「ちまき」は、端午の節句に食べる餅。歌の場面を暗示する働きをしている。後撒きの苗がこの時期に生えたのだろう。それを題材にした端午の節句でのお祝いの歌である。この家では、ようやく大望の男の子が生まれた。しかし、その一方で、親には、一抹の不安があった。親が高齢の子なのである。そこで、作者は、その不安を払拭するために親にこの歌を贈った。物名による賀の歌である。物名のこんな用い方もあることを示している。

コメント

  1. すいわ より:

    題に準えての賀の歌、微に入り細に入り真心が込められていますね。何の苗なのか「たのみ」で米であることが分かる。「頼み」と掛かっている。「苗」を嗣ぐ子、男の子であることも暗示、徒長する事なくしっかりと根を張り健やかに育ちますよ、と。端午の節句の場に相応しい、薫風の渡るような清々しさ。「田の実」で作るちまきを神に捧げ加護を願う。歌を贈られた親の喜ぶ顔が目に浮かびます。

    • 山川 信一 より:

      奥行きのあるいい歌ですね。すいわさんの素敵な鑑賞を引き出しました。
      物名の可能性が伺える歌ですね。歌の役割の一つはやはり贈答にあります。短歌にも生かしたいですね。

  2. まりりん より:

    本当に、あたたかく心を込めて詠まれた歌ですね。「苗」を嗣ぐ子で男の子を暗示、なるほど、そうですね。気がつきませんでした。すいわさんの鑑賞こそ微に入り細に入りで、素敵です!

  3. まりりん より:

    酒の匂い鉢巻きしめてはっぴ着て花棒担ぐ神様担ぐ

    このところお天気が不安定で残念です。

    • 山川 信一 より:

      季節を進ませて、夏祭りにしましたね。今年は復活しました。「酒の匂い」が字余りなので、「酒匂い」でもいいのでは?
      *をんなごも胸にさらしをきつく巻き鉢巻き締めてをのこに交じる
      近頃は女子も負けていません。応援団長にさえも女子がいます。

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