《鹿が知る秋の山》

朱雀院のをみなへしあはせの時に、をみなへしといふいつもしをくのかしらにおきてよめる つらゆき

をくらやまみねたちならしなくしかのへにけむあきをしるひとそなき (439)

小倉山峰立ち均し鳴く鹿の経にけむ秋を知る人ぞ無き

「朱雀院での女郎花合わせの時に、『をみなへし』という五文字を句の頭に置いて詠んだ  貫之」
小倉山を足繁く行き来して鳴く鹿が過ごして来ただろう秋を知る人はいないのだ。」

「経にけむ」の「経(へ)」は、下二段活用の動詞「ふ」の連用形。「に」は、完了の助動詞「ぬ」の連用形。「けむ」は、過去推量の助動詞「けむ」の連体形。「(人)ぞ」は、係助詞で強調を表し係り結びとして働き文末を連体形にする。「なき」は、形容詞「なし」の連体形。
小倉山の峰を平にするくらいに行ったり来たりして鹿が鳴いている。あの鹿はどんな秋を過ごしてきたのだろう。鹿ほどに秋を知る人間などいないのだ。
いわゆる折り句である。不自然な言葉遣いはどこにもない。さすがである。ただ、歌の意はわかるけれど、なぜこんなことを言うのかは、この歌だけでは今一つピンとこない。「それはそうだな。だから、何?」としか思えない。しかし、前の友則の歌と合わせて読めば、その理由がはっきりする。貫之は、前の歌の思いを次のように批判しているのだ。朝露に濡れたくらいで「その山を皆経知りぬる」などと言うのは傲慢だ。あの鹿には遠く及ばない。山の秋には、知り尽くせないほどの魅力がある。わかったつもりになってはいけない。こう言いたいのだろう。

コメント

  1. まりりん より:

    折り句というのですね。面白いですね。

    沖縄へ皆と旅した夏休み平和の祈りしかと届けよ

    結構大変でした。。

    • 山川 信一 より:

      いい歌になりましたね。しっかり主張も為されています。物名、折り句は、作歌の訓練にもなりますね。頑張って作ってみましょう。そこで苦しみながら、私も・・・
      *「を」と言えば皆助詞だとは納得す「へ」は多品詞でしかも助詞は「エ」
      *「を」を省き皆は言わねど汝と共に経し道のもつ真実に捧ぐ(五句目字余り)
      「を」始まりは難しいです。

  2. すいわ より:

    貫之、歌の並び、折り句とますます高度なテクニックを繰り出してきますね。こういう所に新しい歌集に対する強い思い入れを感じさせます。研究熱心でストイック、先生と似ているような?

    • 山川 信一 より:

      私がですか?でも、尊敬する貫之に似ていると思って頂けるのは光栄です。少しでも近付きたいものです。

  3. まりりん より:

    「を(お)くりびと」見て不覚にも涙する平日の午後シネスイッチで

    仮名遣いが違いますが。。

      おくりびと:数年前に話題になった映画
      シネスイッチ:銀座にある映画館

    • 山川 信一 より:

      まりりんさんの日常がしのばれます。たまの休日に銀座で映画を観る。いいなあ!
      物名、上手にお作りになりますね。見事です。

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