山川 信一

古典

第百四段  ある人の思い出話

荒れたる宿の、人目なきに、女のはばかる事あるころにて、つれづれと籠り居たるを、或人、とぶらひ給はんとて、夕月夜のおぼつかなきほどに、忍びて尋ねおはしたるに、犬のことことしくとがむれば、下衆女の出でて、「いづくよりぞ」と言ふに、やがて案内せさ...
古典

《春の戸惑い》

寛平御時きさいの宮の歌合のうた つらゆき はるののにわかなつまむとこしものをちりかふはなにみちはまとひぬ (116) 春の野に若菜摘まむと来しものを散り交ふ花に道は惑ひぬ 「春の野に若菜を摘もうと来たのに、散り乱れる花の有様に、道は思い悩ん...
古典

第百三段  忠守が怒った理由

大覚寺殿にて、近習の人ども、なぞなぞを作りて解かれける処へ、医師忠守参りたりけるに、侍従大納言公明卿、「我が朝の者とも見えぬ忠守かな」と、なぞなぞにせらけにけるを、「からへいじ」と解きて笑ひあはれければ、腹立ちて退(まか)り出でにけり。 大...