《甲斐の国への旅》

かひのくにへまかりける時みちにてよめる みつね

よをさむみおくはつしもをはらひつつくさのまくらにあまたたひねぬ (416)

夜を寒み置く初霜を払ひつつ草の枕に数多たび寝ぬ

「甲斐の国へ下った時の旅の途中で詠んだ 躬恒
夜が寒いので置く初霜を払いながら草の枕に何度も旅寝してしまった。」

「夜を寒み」の「を」は、格助詞。「み」は、形容詞の語幹に着く接尾語。全体で、「夜が寒いので」あるいは「夜を寒い状態にして」の意味になる。「(払ひ)つつ」は、接続助詞で反復継続を表す。「あまたたひね」は、「数多度」と「旅寝」が掛かっている。
山梨に下った時の旅の思いを詠んだ。
夜が寒くなった。季節は秋から冬へと向かっている。初霜が降りて体が濡れる。野宿には辛い季節だ。私は霜を何度も何度も払いながら旅寝を続ける。こんな旅になってしまった。この季節、甲斐への旅は楽ではない。
甲斐への旅のつらさを具体的に述べている。実際には野宿はしていない。しかし、旅気分を大袈裟に表している。旅を語る時、人はしばしば話を盛るものである。

コメント

  1. すいわ より:

    躬恒、414番の歌で北陸にも行っていました。旅慣れているというか、貴族的には地方への赴任だとしたら、本意ではないところもあるのでしょうか。いかにも寒々しく、「おくはつしもをはらひつつ」、何か不遇な人事に気の落ち込みを振り払っているかのようにも思えました。「まぁ、そんな辛い旅路なのだよ」と言っているようにも。

    • 山川 信一 より:

      躬恒の旅は、不本意な任官だったのか、そんな気もしますね。そう思うと、ぼやきとも思えてきます。

  2. まりりん より:

    秋から冬に向かう時期は、日が短くなり気温は寒くなりで、気持ちが何となく沈みがちです。加えて甲斐への山道を登ったり下ったりの苦業で、余計に気が滅入ったのかも知れません。夜が寒く、途中で何度も目覚めて熟睡できなかったのでしょうか。当たり前ですが、楽しい旅ばかりではないですね。

    • 山川 信一 より:

      これは、進んでいく楽しい旅ではなさそうですね。気の乗らない旅もあるということでしょう。

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