《鶴亀よりも》

藤原三善か六十賀によみける  在原しけはる/この歌は、ある人、在原のときはるかともいふ

つるかめもちとせののちはしらなくにあかぬこころにまかせはててむ (355)

鶴亀も千年の後は知らなくに飽かぬ心に任せ果ててむ

「藤原三善の六十賀に詠んだ  在原滋春/この歌は、ある人が在原時春の歌とも言う
鶴亀も千年の後は知らないのだから、満足できない心にすっかり任せてしまおう。」

「(知ら)なくに」は、詠嘆を込めた接続語で順接を表す。「・・・のだから」の意。「(飽か)ぬ」は、打消の助動詞「ず」の連体形。「(果て)てむ」の「て」は、意志的完了の助動詞「つ」の未然形。「む」は、未確定の助動詞「む」の終止形で勧誘を表す。
鶴は千年、亀は万年と申します。でも、その後のことまではわかりません。もしかしたらもっと長生きするかも知れません。どんなことだって、起こり得るのです。ならばいっそのこと、君の齢がいくら長くても満足できない私の心にすっかり任せてしまってはいかがでしょうか。鶴亀よりもずっと長生きしてください。
長寿の代表とも言える鶴亀を出して、比較の対象を示している。その上で、有り得ないことを承知で、歌を贈る人に提案を持ちかける。そのことで自分がいかに長寿を願っているかを表している。相手を巻き込んで「飽かぬ心に任せ果ててむ」と誘うところに独創性がある。いずれにせよ、大事なのは心が籠もっていることと、相手に喜んで貰うことだ。この歌なら贈られて嬉しいだろう。

コメント

  1. すいわ より:

    世間で言われていることより詠み手の思い、どんなに相手の長生きを切望しているか、この確かな気持ちの方を選んで欲しい。「貴方がいついつまでも長生きして欲しいと、”私が”思うのだから」と。思いの強さ、揺るがなさが伝わります。上辺だけ飾られた言葉より、本心の直球の言葉の方が相手の頬を緩めたことでしょう。

    • 山川 信一 より:

      言葉は心の容れ物です。心を欠くことはできません。心と遊離した言葉は空しい。後は心をどう伝えるかですね。「こころにまかせはててむ」は、気持ちが伝わってくるいい言葉ですね。

  2. まりりん より:

    なるほど、あなたの寿命を自分に任せて、と言っているのですね。印象的な表現です。大袈裟ではありますが、暖かくて本当に相手を大切に思う気持ちが伝わってきます。

タイトルとURLをコピーしました