題しらす よみ人しらす
わかよはひきみかやちよにとりそへてととめおきてはおもひいてにせよ (346)
我が齢君が八千代に取り添へて留め置きては思ひ出にせよ
「私の年齢を君の八千年の寿命に取り添えて留め置いては思い出にしてください。」
「(留めおきて)は」は、係助詞で取り立てを表す。
私の短い年齢をあなたの八千年の御寿命の一部にお飾りとして取り添えて留め置いてください。そうして、この私が死んだ後でも、時々そんなやつがいたなあと思い出してください。
作者は、次のように仕掛けた。読み手に「取り添へて留め置きて」とあるのは、どういうことだろうと疑問を持たせる。賀の席でこの人はさぞかし立派な着物を着ていたのだろう。それによって、「取り添へて留め置」くのは、着物のお飾りか何かではないかと思わせる。そして、取るに足らないほど短い自分の寿命と相手の長寿とを対照的に表現しているのだと理解させる。
こうして、この斬新なたとえによって、相手の長寿を願う自分の思いの強さを伝えているのである。
コメント
八千年の寿命と自分の短い寿命の対比。大きさにしたら、キングコングと人間、位でしょうか。何だか極端ですね。自分は「取り添えて留め置く」程度の者、と随分と謙遜していますね。作者が、この人を余程尊敬していて、大切に思っていることが伝わってきます。
確かに二人の関係が気になりますね。まあ、賀の歌ですから、表現が大袈裟になるものなのでしょう。どの歌を読んでも、誇張の度合いを競っているかのようです。
「あなたの長寿に比べたら、私の年齢など吹けば飛ぶような些細なもの。でも、その僅かな分でもあなたの人生の時間に添えて、そこの分だけでも、あなたの人生に私の存在があった事、留め置いて思い出してね。」
歌を送った相手と自分を比べる事で相手がいかに素晴らしいか詠み手の思いの強さは伝わります。でも、自分本位。この歌、詠み手の妻だったら納得できます。
妻にこう思って貰える幸せな夫がどれほどいることか。しかし、夫たるもの、妻からこう思って貰えるように妻を愛さねばなりませんね。