古典

第二十段 自然の移り変わりへの執着

なにがしとかや言ひし世捨人の、「この世のほだし持たらぬ身に、ただ空の名残のみぞ惜しき」と言ひしこそ、誠にさも覚えぬべけれ。 なにがしとかや言ひし:何とかとか言った。「か」は疑問の係助詞。「や」は間投助詞。「し」は経験を表す助動詞「き」の連体...
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《春雨に濡れる野辺の緑》

歌たてまつれとおほせられし時によみてたてまつれる  つらゆき わかせこかころもはるさめふることにのへのみとりそいろまさりける (25) 我が背子が衣はる雨降る毎に野辺の緑ぞ色勝りける 「私の親しい方の衣を張る、そんな春、雨が降る毎に野原の緑...
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第十九段 四季への思い ~冬~

さて冬枯の気色こそ秋にはをさをさおとるまじけれ、汀の草に紅葉の散りとどまりて、霜いと白う置ける朝、遣水より烟の立つこそをかしけれ、年の暮れはてて、人ごとに急ぎあへる比ぞ、又なくあはれなる。すさまじきものにして見る人もなき月の、寒けく澄める廿...