《笠をさす山》

秋のうたとてよめる 在原元方

あめふれとつゆももらしをかさとりのやまはいかてかもみちそめけむ (261)

雨降れどつゆも漏らじを笠取の山はいかでか紅葉染めけむ

「秋の歌と言うことで詠んだ  在原元方
雨が降っても少しも漏らさないだろうに、笠取の山はどうやって紅葉を染めたのだろう。」

「つゆも」は、打消の語句と呼応する副詞で「少しも」の意を表す。「じ」は打消推量の助動詞の連体形。「を」は接続助詞で逆接を表す。「いかでか」は疑問の副詞。「けむ」は過去推量の助動詞の連体形。
雨が降っても、ここは笠を取って持っている笠取山。笠をさしているから、木の葉は雨に少しも濡れないはずだ。なのに、山は一面素晴らしく見事に紅葉している。笠取の山は一体どうやって、木の葉を染め上げたのだろう。何とも不思議なことだ。
紅葉が何によってなされるかへの疑問は尽きない。「時雨」によって、紅葉すると言うけれど、ならば、笠を持っていて雨に濡れないはず笠取の山が紅葉するのはなぜなのか。そんな疑問が湧くほど、笠取の山の紅葉が素晴らしいと言う。つまり、この疑問によって、紅葉の素晴らしさを表しているのである。この歌も、笠取の山への挨拶歌であろう。
前の歌が漏る山だったので、今度は笠のあって漏らない山にしている。編集に遊び心が溢れている。

コメント

  1. すいわ より:

    秋の移ろって行く様子を紅葉の色づきで感じる平安人、その過程を幾通りにも推測してみる。皆の関心事なのでそれは様々。多角的にみる事で一層秋の見え方に深みが増します。
    歌の並びが工夫されていることをここでも感じられます。まるで屏風絵を見ているようです。

    • 山川 信一 より:

      世界は歌の材料に溢れています。紅葉一つを取っても、捉え方、歌の表現の仕方はいくらでもあります。あらゆるものが歌われるのを待っています。『古今和歌集』の歌は、そのお手本を示しているようです。

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