第七十八段  日常ありがちな態度

 今様の事どものめづらしきを言ひひろめ、もてなすこそ又うけられね、世にことふりたるまで知らぬ人は、心にくし。いまさらの人などのある時、ここもとに言ひつけたることぐさ、ものの名など、心得たるどち、片端言ひかはし、目見合はせ、笑ひなどして、心知らぬ人に心得ず思はする事、世なれず、よからぬ人の、必ずある事なり。

いまさら:初めて。
言ひつく:言い慣れる。

「最新の流行などで珍しいのを言い広め、もてはやすことはまたこれも受け入れられないが、流行が世間で古くなるまで知らない人は、奥ゆかしい。新参の人などがある時、自分たちで慣れている言葉、物の名前など、知っている者同士が、一部分を言い合い、目と目を見合わせ、笑うなどして、その意味を知らない人に何のことかわからないように思わせることは、世慣れしていない、無教養な人の、必ずやることである。」

これも前段同様に日常よく見かける態度への批判である。二通り取り上げている。
前者は流行に対する態度。最新の流行にいち早く飛びつき、もてはやし、そのことで自分が時代の最先端にいることを誇示しようとする。これは、現代人にもありがちである。なるほど、流行には、流行るだけの理由がある。しかし、その価値は未確定である。生き残れるかどうかはわからない。価値が定まるまで飛びつかない方が賢明であろう。流行に疎い方が奥ゆかしいと言うのも納得できる。
後者は、新しく来た人に対する意地悪な態度である。具体的でそのさまが目に浮かぶ。まさに「あるある」である。目的は、その集団での自分たちの価値を誇示するためである。新人に劣等感を与え、自分たちは優越感を得たいのだ。残念なことに、これも現代でも、よく見かける態度である。それが実につまらぬものであるかがまるでわかっていない。
いずれも、具体的で説得力がある。一度でもこういうことをした経験がある人は、反省させられるだろう。批判は具体的な方が効果がある。

コメント

  1. すいわ より:

    ヒトという生き物は変わらないものなのですね。自分の行きたい方向へ一歩踏み出すには流れに逆らわなくてはならない。流れに身を委ねてしまった方が楽。でも、自分のスタイルを変えたくないのなら強くなるより他ない。他者と違うのだから目立つ。なんだ、わざわざ自分から的になっていたのですね。
    兼好、分かりやすく暴いてくれて胸のすく思いです。そんな訳で今日も、たった1人でも私は着たい「服」を着ることにします。

    • 山川 信一 より:

      世の流れに逆らって生きるのはなかなか難しい。自殺する人など、その典型です。世の流れがすべてであると思い込み、自己を否定してしまうのです。
      世を変えることより自己の終わりを想像することの方が遥かに容易いからです。しかし、世は変えられます。視点を変えれば、自己を否定しないで済みます。
      着たい「服」を着ることから始めたいですね。

タイトルとURLをコピーしました