山川 信一

古典

第三十八段  名誉欲に於ける愚かさ

埋もれぬ名を長き世に残さんこそ、あらまほしかるべけれ、位高く、やんごとなきをしも、すぐれたる人とやはいふべき。愚かにつたなき人も、家に生れ、時にあへば高き位にのぼり、おごりを極むるもあり。いみじかりし賢人・聖人、自ら賤しき位にをり、時にあは...
古典

《梅の香は春の形見》

寛平御時きさいの宮の歌合のうた  よみ人しらす うめかかをそてにうつしてととめてははるはすくともかたみならまし (46) 梅が香を袖に移して留めてば春は過ぐとも形見ならまし (とどめ)て:「て」は、意志的完了の助動詞「つ」の未然形。 まし:...
古典

第三十八段  利欲に縛られる愚かさ

名利に使はれて、しづかなるいとまなく、一生を苦しむるこそ愚かなれ、たから多ければ、身を守るにまどし。害を買い、わづらいを招くなかだちなり。身の後にはこがねをして北斗をささふとも、人のためにぞわづらはるべき。愚かなる人の目をよろこばしむる楽し...