山川 信一

古典

第三十二段  もののあわれを知る女

九月廿日の比、ある人に誘はれ奉りて、明くるまで月見歩く事侍りしに、思し出づる所ありて、案内せさせて入り給ひぬ。荒れたる庭の露しげきに、わざとならぬ匂ひ、しめやかにうちかをりて、忍びたるけはひ、いとものあはれなり。よきほどにて出で給ひぬれど、...
古典

《香りこそ梅の美点》

くらふ山にてよめる  つらゆき うめのはなにほふはるへはくらふやまやみにこゆれとしるくそありける (39) 梅の花匂ふ春べはくらぶ山闇に越ゆれど著くぞ有りける 春ベ:春の頃。春先。 「くらぶ山で詠んだ  紀貫之 梅の花のよい香りがする春の頃...
古典

第三十一段  無風流をなじる人

雪のおもしろう降りたりし朝、人のがり言ふべき事ありて、文をやるとて、雪のことなにとも言はざりし返事に、「この雪いかが見ると一筆のたまはせぬほどの、ひがひがしからん人の仰せらるる事、聞き入るべきかは。かえすがえす口をしき御心なり」と言ひたりし...