是貞のみこの家の歌合のうた としゆきの朝臣
あきののにやとりはすへしをみなへしなをむつましみたひならなくに (228)
秋の野に宿りはすべし女郎花名を睦ましみ旅ならなくに
「是貞親王の家の歌合わせの歌 敏行朝臣
秋の野に宿りはするのがいい。女郎花は名が慕わしいので。旅ではないのに。」
「すべし」の「べし」は、適当・当然を表す助動詞の終止形。ここで切れる。以下は、倒置になっている。「名を睦まじみ」は、「を・・・み」が原因理由を表すとも、「そういう状態で」の意を表すとも取れる。「なくに」は、連語で逆接を表す。
秋の野に女郎花が咲いている。女郎花という名に親しみを感じて、ここに宿を取るべきだと思う。わざわざ旅に出た訳じゃないのだけれど、名に惹かれて女郎花を見ているうちにそんな気になってしまった。
「女郎花名を睦ましみ」が「秋の野に宿りはすべし」という判断の理由になっている。「女郎花」という名前に慕わしさを覚えたからだと言う。「旅ならなくに」は、それに対するコメントである。つまり、この歌は「(秋の野に宿りはすべし←女郎花名を睦ましみ)←旅ならなくに」という構造になっている。
やはり、女郎花は、その名ゆえに男心を誘うのであろう。
コメント
何故?と思わせ、その理由を告げ、あぁ成程と共感させてしまう。その名を思うと立ち止まるにとどまらず、そこに宿りたくまでなる。旅の気分のように日常から離れた浮ついた心地にさせられてしまうのでしょうか。「名」の力、侮れません。
人は、言葉(=名)を通して、物を認識します。名は経験に形を与えます。それによって、名の無き経験は、意味を持ちます。言葉にならない多くの経験の中で、名を持った経験は比べようにない力を得ます。「名」が付くとは、そういうことなのです。言葉の怖さがわかりますね。
女郎花、少女のような可憐な花ですよね。
なのに女と名につくとかなり色気のある印象の花のイメージになっちゃいますね。
本当にそうですね。なんでこんな名前になってしまったのでしょう。名前は、怖いですね。