題しらす よみ人しらす
みやきののもとあらのこはきつゆをおもみかせをまつこときみをこそまて (694)
宮城野の本疎の小萩露を重み風を待つごと君をこそ待て
「題知らず 詠み人知らず
宮城野の根本に葉がまばらな萩が露が重いので風を待つように君を待つのだが・・・。」
「露を重み」の「を・・・み」は、いわゆる「み語法」で、「・・・が・・・ので」の意。「君をこそ待て」の「こそ」は、係助詞で強調を表し係り結びとして働き文末を已然形にし以下に逆接で繋げる。
遠く離れた宮城野には、根本に葉がまばらな萩があると聞いています。それに露が置くと枝の先端が重くなり撓りが強くなります。そこで、元に戻るには、風が吹いて露を吹き飛ばしてくれるのを待つしかありません。言わば、風という自分ではどうにもならない他力に縋らなければならないのです。今の私は、その萩そのものです。あなたが宮城野の萩のように遠く感じられます。あなたが来てくださらないので、あの萩のように心が撓り、涙という露の重さに耐えきれず、今にも折れそうです。どうか、あなたが涙を吹き飛ばす風となってください。来てくださるのをひたすら待っています。
これも訪れない男に贈った女の歌である。「君」とあるから、まだ親密な仲であることがわかる。急に来なくなったのだろう。作者の見えない思いを具体物によってイメージ化して伝えようとしている。
この歌も、前の歌に続いて訪れない男の心を動かそうとする歌である。男心をどう動かすかが女の腕の見せ所である。それには、読み手の男を驚かせる題材を用いることが有効である。この歌は「宮城野の本疎の小萩露を重み風を待つごと」という新鮮なたとえを用いている。その目の付け所に男は心動かされたに違いない。編集者は、このたとえと言い切らない「こそ・・・逆接」の結びを評価したのだろう。
コメント
「もとあらのこはき」、何とも心許なく頼りなげです。露すらも重く、自ら振るい落とすことも出来ない。首をもたげるには露を払う風を待つしかない。その姿はまるで、、。貴方がいらっしゃると聞こえれば(風)私の心は震えて(小枝が揺れて)涙は払われ、面を上げることが出来る。そんな心持ちで待っております、どうか会いに来てください、と。地方に赴任した時に出会った恋人からの歌でしょうか。萩を見たら彼女の姿を鮮明に思い浮かべられそうです。遠ければこそ歌を絵姿の代わりに贈っているよう。
いい鑑賞です。特に「貴方がいらっしゃると聞こえれば」と「風」を捉えた点と「遠ければこそ歌を絵姿の代わりに贈っている」と女が歌にこめた思いを捉えた点が素晴らしい。
「宮城野の本疎の小萩露を重み」なかなか思いつかない例えですよね。露は涙。風は恋人。露を吹き飛ばすのは風。私の涙を拭ってくれるのは貴方しかいない、と。女性はひたすら待っている。しかし訪れはなく、涙の重みで枝が折れてしまうでしょうか。悲恋の予感がします。。
恋が復活する可能性は低い。それでも、一縷の望みを託してこの歌を贈ったのでしょう。女の憐れが伝わって来ますね。