《千鳥の鳴き声》

題しらす よみ人しらす

しほのやまさしてのいそにすむちとりきみかみよをはやちよとそなく (345)

しほの山さしての磯に住む千鳥君がみ世をば八千世とぞ鳴く

「潮の山さしでの磯に住む千鳥があなたのお年を八千年と鳴く。」

「千鳥」は、主語で「鳴く」に掛かる。「(み世を)ば」は、係助詞「は」が濁ったもので、取り立てを表す。「ぞ」は、係助詞で強調を表し、係り結びとして働き文末を連体形にする。「鳴く」は、四段動詞「鳴く」の連体形。
潮が満ち出して塩の山になる「さしでの磯」。その磯に住む千鳥が「やちよやちよ」と鳴く。それはあなたのお年を言っているのだ。どうか千鳥の鳴き声通り長生きしてください。
「さしでの磯」は地名。「さし」は、潮が満ちる意である。ならば、「潮の山」は、「さし」の枕詞ということになる。いずれにせよ「潮の山さしでの磯」は、潮によって作られた塩の山からできた磯のことで、できるまでの長い年月が感じられる。その点「細石の巌となりて」に通う所がある。そして、その磯に「千」という縁起のいい名前を持つ「千鳥」が「ちよちよ」と鳴く。それが「八千世八千世」と聞こえると言うのだ。視覚に加え聴覚にも訴えて、長寿の祝いの歌に仕立てている。

コメント

  1. すいわ より:

    この歌を読んで国連でのカザルスの演説「…私の故郷では鳥たちは Peace、Peace、Peace と鳴きながら空を飛んでいます」を思い出しました。鳥鳴く世というのはどこか平穏な長閑さを感じるものなのでしょうか。耳を傾けるゆとりがある証拠なのでしょう。
    冒頭の「しほのやま」が印象的。
    波の一雫が乾いて塩を結び、寄せる波が繰り返し繰り返した結果、この立派な磯が築かれた。その姿はまさに髪がすっかり白くなり泰然とされた貴方のよう。この豊かな磯に住む沢山の鳥までもが「八千代八千代」と貴方の長生きを寿いでいることよ、と。
    塩の山(お祝いされる人)が揺らぎなく重厚な印象なのに対し、波の音をバックに聞こえてくる千鳥の声が、訪れた人たちが口々にお祝いの言葉を言ってさざめいている様子のように思えました。

    • 山川 信一 より:

      すいわさんの想像力の豊かさにまた驚かされました。カザルスの鳥を連想するとは。また、「しほのやま」から賀の席での祝われている方の白髪を連想するとは。この歌が詠まれた賀の席に思いを馳せたことで、歌の世界に命が吹き込まれました。千鳥の鳴き声は、お祝いに訪れた人々の声でもあるのですね。その様子が見えてきました。

  2. まりりん より:

    塩に千に八に、、祝いの歌に相応しく縁起の良いものが登場しています。千鳥が鳴いて、ちよちよ → やちよやちよ と聞こえる。作者の遊び心が感じられて微笑ましいです。
    塩の山が出来るまでの歳月、、気の遠くなるような長い年月ですね。

    • 山川 信一 より:

      「塩」はこの時代既に演技がよいものになっていたのでしょう。盛り塩、相撲での撒き塩、葬式のお清めの塩・・・。それがこの歌の最初に置かれ、歌のイメージを生み出していますね。

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