これさたのみこの家の歌合によめる としゆきの朝臣
しらつゆのいろはひとつをいかにしてあきのこのはをちちにそむらむ (257)
白露の色は一つをいかにして秋の木の葉を千々に染むらむ
「是貞の親王の家の歌合で詠んだ 敏行の朝臣
白露の色は一つなのにどうやって秋の草木を様々な色に染めているのだろう。」
「一つを」の「を」は接続助詞で逆接を表す。「染むらむ」の「らむ」は現在推量の助動詞の連体形。
秋の木の葉の色は実に様々だ。木々によって異なり、同じ木の中でも違う。どんな染料で染めたのだろうと思うけれど、それらは全て露が染めたのだ。ただし、露は白露と言うように色は白一色のはず。それなのに、なぜこれほど多くの色に染め上げたのだろう。
紅葉を自然による美しい錦の染め物と捉えた。それによって紅葉がいかに美しいかを表している。では、染め物ならば、何によって染めたのか。それは露に違いない。しかし、露の色は白一色だ。それが木々の葉をこれほど様々な色に染め上げているのだ。そこに自然の驚異を感じずにはいられない。この歌は、そのことへの感動を表している。
この歌には、技巧として、二つの対照が用いられている。一つは、「白」と紅葉の色との対照である。露は本来色が無いけれど、敢えて「白」と言うことで、対照的に木々の色を際立てている。もう一つは、「一つ」と「千々」という数字の対照である。この対照によって、露と紅葉の隔たりと紅葉の色彩がいかに多様であるかを表している。
コメント
露結ぶ頃、秋もすっかり深まった頃。とりどりの紅葉も鮮やかでしょう。露と紅葉の対照、なるほど数と色、紅葉の鮮やかさ、多様な種類が際立ちます。露の冷たさと紅葉のひなたの暖かさも感じられました。
歌の趣旨とは離れてしまいますが「いろはひとつ」、いろはの音ひとつひとつでは意味をなさないけれど、それが種になって言葉を作り、紅葉のように多彩な歌が生まれるのだとこの歌を読んで思いました
いろはの音ひとつひとつが種になって多彩な歌を生み出す、素敵な鑑賞ですね。貫之が気に入ってくれそうです。