《女郎花の衰え》

朱雀院のをみなへしあはせによみてたてまつりける つらゆき

たかあきにあらぬものゆゑをみなへしなそいろにいててまたきうつろふ (232)

誰が秋にあらぬものゆゑ女郎花なぞ色に出でて未だき移ろふ

「朱雀院の女郎花合わせに詠んで、献上した  貫之
誰の秋というのではないのに、女郎花はどうして早くも衰えていくのか。」

「あらぬものゆゑ」の「ぬ」は、打消の助動詞「ず」の連体形。「ものゆゑ」は、接続助詞で逆接を表す。「なぞ」は、副詞で疑問を表す。「まだき」は、副詞で「まだその時期ではない」という意を表す。「移ろふ」の「ふ」は、助動詞「ふ」の連体形で継続を表す。
秋は誰か特定の人の季節ではない。もちろん、女郎花の独占物ではない。それなのに、女郎花は、秋を自分のものにしてしまい、いち早く衰えてしまったことだなあ。
女郎花は、秋の比較的早い時期に咲く。そのために、他の花に先駆けて衰えてしまう。美しいだけに、衰えてしまうのを見るのは、一層悲しい。まだ、秋が始まったばかりなのにと残念に思う。そこで、女郎花と言えば女を連想するから、女になぞらえる。作者の嘆きは、自分の愛する女が悪い男に惹かれこれを愛するけれど、容色が衰え捨てられてしまった場合に似ていると言うのである。人事を自然にたとえるのではなく、自然を人事にたとえている。

コメント

  1. すいわ より:

    秋をいち早く彩る女郎花、多くの人の関心を引き、さぁこれからという時に目に見えて萎れてしまう。
    秋は誰の上にも同じに訪れるはずなのに、ひとり注目を浴びた罰なのか、一身に秋が降り衰えてしまう。「美人は三日で飽きる」なんて言うけれど、枯れていく様まで込みで女郎花は「美しい」はず。季節と共に人の心も移ろい離れていく。女郎花はそこから離れられない。なんとも哀れです。

    • 山川 信一 より:

      貫之は、「季節と共に人の心も離れていく」女郎花の特徴をこう捉えたのでしょう。

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