古典

第百六段    上人の品格

高野の証空上人、京へのぼりけるに、細道にて、馬に乗りたる女の行きあひたりけるが、口ひきける男、あしくひきて、聖の馬を堀へおとしてげり。聖いと腹悪しくとがめて、「こは希有の狼藉かな。四部の弟子はよな、比丘よりは比丘尼はおとり、比丘尼より優婆塞...
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《想像の桜》

寛平御時きさいの宮の歌合のうた つらゆき ふくかせとたにのみつとしなかりせはみやまかくれのはなをみましや  (118) 吹く風と谷の水とし無かりせば深山隠れの花を見ましや 「もし吹く風と谷川の水が無かったら、山奥に隠れて人目につかない桜を見...
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第百五段    逢瀬を覗き見る

北の屋かげに消え残りたる雪の、いたう凍りたるに、さし寄せたる車の轅も、霜いたくきらめきて、有明の月さやかなれども、隈なくはあらぬに、人離れなる御堂の廊に、なみなみにはあらずと見ゆる男、女となげしに尻かけて、物語するさまこそ、何事にかあらん、...