題しらす よみ人しらす
めつらしきひとをみむとやしかもせぬわかしたひものとけわたるらむ (730)
珍しき人を見むとやしかもせぬ我が下紐の解け渡るらむ
「題知らず 詠み人知らず
珍しい人に逢うだろうと、解きもしない私の下紐が解け続けているのだろうか。」
「(見)むとや」の「む」は、推量の助動詞「む」の終止形。「と」は、格助詞で引用を表す。「や」は、係助詞で疑問を表し係り結びとして働き結びを連体形にする。「しかもせぬ」の「しか」は、副詞。「も」は、係助詞で強調を表す。「せ」は、サ変動詞「す」の未然形。「ぬ」は、打消の助動詞「ず」の連体形。「(解け渡る)らむ」は、現在推量の助動詞「らむ」の連体形。
もしかして今日は別れたあの人に逢うことになるのだろうか。そんな予感がしてならない。なぜなら、解きもしない私の下着の紐が解け続けているのだから。
別れた恋人に再び逢えるのではないかという、再会への期待を詠んでいる。
この歌は、恋が甦ることを期待する心理を詠んでいる。事情によって別れてしまったけれど、憎からず思っている恋人に対する思いである。再び逢いたいという思いから物事を都合よく解釈する。作者は、「珍しき人を見む」とあるから、女だろう。男は、自ら逢いに行けばいいのだから、こうは言わない。表現としては、指示内容が後に来る「しかもせぬ」の使い方に工夫がある。読み手に疑問を抱かせて先を読ませるからである。編集者は、こうした内容と表現を評価したのだろう。
コメント
別れてしまった後でも、ふと蘇る恋の思い出。きっとそれは幸せな時間だったのでしょう。別れの苦さより甘美な触れ合い。だから少しの兆しでも貴方に結び付けてしまう。素直な気持ちで詠んだのかもしれない。でも、こんな歌を詠まれたら男は期待してしまうでしょう。この思わせぶりな態度が男の未練を長引かせるのでしょうね。なんとも罪深い。
こんな歌を贈られたら、男は心穏やかではいられませんね。恋は直ぐにでも復活しそうです。恋はいい女(罪深い女)の掌の中にあるものなのでしょう。
別れた人を諦めきれず、よりを戻したいのですね。このように未練を引きずるのは男性的と思いましたが、作者は女性なのですよね。下紐の解け渡るー 誘っていますね〜
これが男の歌なら、かなり下品に感じられます。到底女が乗るとは思えません。女が言うから許されるのではないでしょうか。確かに誘っていますね。