《晩秋の季節感》

にかたけ しけはる(滋春)

いのちとてつゆをたのむにかたけれはものわひしらになくのへのむし (451)

命とて露を頼むに難ければ物侘びしらに鳴く野辺の虫

「命として露を頼りにする訳では無いから、もの侘しい様子で鳴く野辺の虫。

「難ければ」の「ば」は、接続助詞で原因理由を表す。「侘びしらに」は、副詞で「侘しげな様子で」の意を表す。
これを吸っていれば命が持つといって露を頼りにするのが難しいので、何か辛そうに鳴く野辺の虫だなあ。秋にはこんな侘しさもあるのだなあ。
「にがたけ(苦竹)」は、竹の一種(真竹・女竹)で、筍が苦いことからの命名と言う。この筍の旬は夏だけれど、既に季節は秋になっている。それも露より他に食べ物もあまりない晩秋である。「苦竹」が生えている中で虫が鳴いている。虫は、露によって少し命が長らえたところで、いずれ死んでいく。それを知っているのだろうか。いかにもつらそうに鳴いている。苦竹の苦さがつらさに重なって感じられる。それはそのまま今の作者自身の思いに重なる。苦竹を背景に露と侘しげな虫の音によって晩秋の季節感を表している。

コメント

  1. すいわ より:

    秋、月の美しい頃。でも今宵は新月、暗闇にただ虫の音だけが響いている。こんな日もある。縁に出て一人、甘露を味わう。あぁ、この寂寥感、お前達も同じなのだな。露で僅かに繋いだ命で私の心の内を歌ってくれている。私もこの闇に溶け込んだ行くようだ、、

    文鳥の小首左右に傾たり吾の悲しみを知るか知らずか

    • 山川 信一 より:

      いい鑑賞です。情景と思いとが伝わってきます。作者は虫に感情移入しているのですね。物名は、表現にばかり目が行ってしまいがちです。しかし、こうして内容を鑑賞すべきですね。
      素敵な歌です。文鳥の様子が目に浮かんできます。すいわさんは、歌も上手ですね。では、鳥繋がりで味気ない歌を。
      *怒りにか猛々しくもなりにける子育てをする街の鴉は(にかたけ)

      • すいわ より:

        返し
        怒りにか猛々しくも親鴉生き延びる術子思うが故

        • 山川 信一 より:

          その時期には怖い思いもしますが、親鴉も必死なのですね。刺激しないようにするしかありません。

  2. まりりん より:

    秋が盛りを過ぎて冬に向かう。草は枯れ虫は死に、生命の営みが静まる季節。侘しく、儚げに鳴く虫の声が聞こえてきそうです。
    詠み込まれた「にがたけ」が背景で生きていますね。

    • 山川 信一 より:

      物名は、題名を詠み込むだけでなく、内容にどう生かすかも重要ですね。詠み込むだけなら、それほどは難しくないのですから。

  3. まりりん より:

    <昭和編>
    筍の基本の煮方けん命に覚えど義母(はは)の容赦なき評価

    <令和編>
    筍の基本の煮方けん命に習いて挑む筍御膳

    物名を一応背景に生かしたつもりですが、伝わるかどうか。。

    • 山川 信一 より:

      苦い思いをしながらと言うことでしょうか?発想が面白いです。世相の違いがよく出ています。今は料理教室で習うか、自分でスマホで調べて作るのかな?
      もし、字余りを解消するなら、「厳しき評価」「筍ご飯」もありますね。

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