《吉野の滝》

をかたまのき  とものり

みよしののよしののたきにうかひいつるあわをかたまのきゆとみつらむ (431)

み吉野にある吉野の滝に浮かび出づる泡をか玉の消ゆと見つらむ

「吉野の里の滝に浮かび生じる泡を真珠が消えるものと見てしまっているのだろうか。」

「み吉野の」は、吉野の美称。「(泡を)か」は、係助詞で疑問を表し係り結びとして働き文末を連体形にする。「見つらむ」の「見」は、マ行上一段活用の動詞「見る」の連用形。「つ」は、意志的完了の助動詞「つ」の終止形。「らむ」は、現在推量の助動詞「らむ」の連体形。
美しい吉野の里にある吉野の滝。人々はその滝を見に行った。その滝は、水が滝口に落下する際、沢山の泡が生じて浮かび消えていく。それを見ている人々は、その美しさに今頃真珠が生じては消えていくと、見てしまっているだろうか。
作者は吉野の里に滝を見に行った人の思いを推量している。つまり、今頃、水の落花によって生じた泡の美しさに感動しているだろうと想像している。「つ」は、その感動の実現と強さを表している。しかし、作者自身は実際に見ていない。何からの事情で行かれなかったのだろう。その残念な思いも伝わってくる。
さて、ここにはどんな植物の名が隠されているか。その植物は、神事に用いられ、神社などに植栽される。あまり馴染みの無い名かも知れない。

コメント

  1. すいわ より:

    「おがたまの木」ってありますか?鎌倉宮の入り口に大きな木があったような気がするのですが。
    吉野というとまず桜を思い浮かべますが、吉野「山」、滝もある訳ですね。美し尽くし。実際に見られないからこそ羨む気持ちも膨らみます。結んでは消える美しい「玉」、詠み手は患って行けなかったのかと思えてしまいます。

    • 山川 信一 より:

      正解です。さすがに観察が細かい。鎌倉宮にあるのですね。ならば当然吉野宮にもありましたね。「おがたまのき」は、背景として働いていたのですね。
      この歌は、吉野の滝を歌いながら、行けなかった人の残念な思いを表しています。歌としても優れていますね。

  2. まりりん より:

    「をかたまのき(小賀玉の木)」でしょうか。これは先生のヒントが無ければ見つけられませんでした。

    北の果ての空の低きに旋回す飛行機操るは丘珠の君

    かなり無理矢理です。だから何? という感じですが。

    • 山川 信一 より:

      正解です。吉野宮に植えてあったのでしょう。
      イメージ豊かな歌です。とにかく作って見ることが大事ですね。では、私も作らなければなりませんね。
      *鑑賞を堅間の肌理の細かさの進み遅くも楽しくなさむ  「堅間」は、目を細かく編んだ竹の籠です。  
      世の中は、スピード重視世の中で、速さ・早さだけが善とされます。でも、言葉を通して人を理解するには、時間掛かります。納得がゆくまで考え抜きましょう。楽しむ心を持ちながら。

  3. すいわ より:

    をがたまの木って「小賀玉」って書くのですね。なるほどめでたげで良い名だったのですね。子供だったので「拝みたまえ!」って命令してるみたいで偉そうね、神社の木だから偉いのかしら?と思ったのを覚えていて(笑)。また賢くして頂きました!今度行った時は「小賀玉」と心で呼びかけて見てきます!

    • 山川 信一 より:

      「おがたまのき」は、招霊木、小賀玉木、大賀玉木、緒が玉の木とも書きます。ですから、要するにどれも当て漢字です。どれが本当の語源かはわかりません。もしかすると、「拝みたまえ!」が近いかも知れませんよ。私は何となく「緒が玉の木」かなあと思います。

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