十五日、けふあづきがゆにずくちをしく、なほひのあしければゐざるほどにぞけふはつかあまりへぬる。いたづらにひをふればひとびとうみをながめつゝぞある。めのわらはのいへる、
「たてばたつゐればまたゐるふくかぜとなみとはおもふどちにやあるらむ」
いふかひなきものゝいへるにはいとにつかはし。
問 女の童の歌の意を踏まえて、書き手が「いふかひなきものゝいへるにはいとにつかはし」という思いを説明しなさい。
十五日は、小豆粥を食べる日だった。小豆が無くて煮ることができなかったのは、がっかりしている。その上に天気も悪く、船は膝で進むほどにしか進まない。今日は出発してから、二十日以上経ってしまった。思うように行かないことばかりだ。無意味に日が経つので、人々は海をずっと海を眺めて物思いに耽っている。そんな時に、女の子がこんな歌を歌った。
「風と浪は、一方が立てば立つ、一方が静まれば静まる、二人は今のところ気のあった仲良しさんでいるのかしら?」(「あるらむ」の「らむ」は現在推量。)
この歌は、子どもっぽく幼稚な(=いふかひなき)歌だけれど、童の歌として、いかにもそれ相応で似つかわしい。歌は、背伸びをせず、身の丈に合ったものがいい。だから、皆この子の歌の無邪気さに慰められたのである。
コメント
評価を敢えてするような歌ではないが、幼子が幼子なりの言葉で歌っているところが良い、としているのですね。「いへるには」をどう取るか分からず、なるほど、納得できました。
歌詠みの心得をしっかり伝えているところが貫之らしいです。
「いへるにはいちにつかはし」の意を取るところが難しいですね。ただ、言葉に沿って考えるとこうなります。
また、「かぜとなみとはおもふどちにやあるらむ」は、「二人は今のところ気のあった仲良しさんでいるのかしら?」と解しましたが、「らむ」(現在推量)を使った思いをくみ取りました。つまり、「今のところは仲良しでも、これから先仲違いしてもいいのにね。」という思いが込められていると読みました。
船旅で材料が手に入らず悔しい思いをしているのですね。
つまらない気持ちが伝わってきます。
女の子の歌はすごく素敵です。
うんうん、そうだなあと、私も癒されました。
でも、これから先、仲違いしてもいいのにねとくると、なんか怖いですね。
なるほど、仲違いはいいことではありませんね。でも、ここは風浪が仲違いしてくれれば、雁に風があっても浪が立たないから、船は進めます。
「かぜとなみとはおもふどちにやあるらむ」と現在推量の「らむ」を使っているところをくみとりました。「今は仲良しなのだろうか?」というところから、「将来はわからないけどね。」という含みを感じました。