《喜びの大きさ》

題しらす よみ人しらす

うれしきをなににつつまむからころもたもとゆたかにたてといはましを (865)

嬉しきを何に包まむ唐衣袂豊かに裁てと言はましを

「題知らず 詠み人知らず
この嬉しいことを何に包もう。唐衣は袂を豊かに裁てと言うべきであったよ。」

「(包ま)む」は、助動詞「む」の連体形で意志を表す。「(言は)ましを」の「まし」は、助動詞「まし」の連体形で反実仮想を表す。「を」は、終助詞で詠嘆を表す。
大切な物は袂に包んで戴くものでございますが、この嬉しい出来事を何に包んで戴きましょうか。こんなに嬉しい出来事があると知っていたら、この袂をもっとゆったりと仕立てよと言うべきでございましたよ。喜びがあまりに大きく、この袂では狭すぎてとても包みきれそうにございません。ありがとうございます。
作者は、自分の喜びの大きさ・感謝の程をユーモラスに伝えている。
前の歌とは、「唐」「裁」繋がりである。ただし、ここでは「唐錦」が「唐衣」になり、「裁て」が縫うまでを含めた「仕立てる」の意で使われている。未確定を表す「む」と反実仮想を表す「まし」、詠嘆を表す「を」が利いている。有り得ない事実設定によって、和やかな雰囲気を作り出すことに成功している。『古今和歌集』は、助詞・助動詞を駆使した歌集である。編集者は、こうした表現を評価したのだろう。

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