《恋を繋ぐ》

題しらす よみ人しらす

さむしろにころもかたしきこよひもやわれをまつらむうちのはしひめ (又は、うちのたまひめ) (689)

さ筵に衣片敷き今宵もや我を待つらむ宇治の橋姫(または、宇治の玉姫)

「題知らず 詠み人知らず
敷物の上で独り寝をして今夜も私を待っているだろうか。宇治の橋姫(玉姫)は。」

「さ筵」の「さ」は接頭語。「(今宵も)や」は、係助詞で疑問を表し係り結びとして働き文末を連体形にする。「(待つ)らむ」は、現在推量の助動詞「らむ」の連体形。
このところ逢えない夜が続いています。やむを得ない事情でなかなか行かれません。申し訳なくも、寂しくも思っています。独り寝の夜には、着物の片方を敷いて寝ますが、今夜もそうして私を待っていてくださるでしょうか。宇治の守り神のようなあなたは。
作者は何らかの事情で宇治にいる愛人に逢いに行けない。そこで愛人の心が離れないように歌を贈った。
愛しい人に常に逢えるとは限らない。まして、遠い所に住むなら尚更である。宇治は京から少し離れた所にあるので、愛人の心が自分から離れないように繋ぎ止めておく必要がある。そのために歌を贈る。「さ筵に衣片敷き今宵もや我を待つらむ」は、自分が愛人をいかに具体的に思いやっているかを表している。これは、自分の誠意を伝えるためである。そして、同時に愛人への信頼も表している。作者は、愛人の浮気が気がかりなのだろう。そこで、愛人を「宇治の橋姫」と持ち上げて、「『宇治の橋姫』のようなあなたは浮気などしない。あなたを信頼していますよ」と暗に伝えているのである。編集者は、こうした心遣いを評価したのだろう。

コメント

  1. すいわ より:

    「こよひもや」なのだから女が待っているのはこの日だけではない、暫く会えていないのですね。「さ筵に衣片敷き」がいかにも寒々しく寂しい光景を想像させます。こう具体的に詠むことでより思いを寄せてその身を気に掛けているという事を伝える。そして「宇治の橋姫」、「橋」から渡るを連想させ、遠くにいるあなた、必ず行くから待っていてくれるように、とも読めます。(玉姫なら「美しく宝物のような貴女」ですね)

    • 山川 信一 より:

      「「宇治の橋姫」、「橋」から渡るを連想させ、遠くにいるあなた、必ず行くから待っていてくれるように、とも読めます。」に共感します。単に相手を「姫」と持ち上げたばかりではないのですね。

  2. まりりん より:

    「さ筵に衣片しき今宵もや」で侘しく寂しい印象を受けます。そして下句では「宇治の橋姫」と持ち上げて喜ばそうとしている?
    私には、作者が浮気をしていて毎日独り寝をさせている恋人に後ろめたい気持ちがあるように思えました。だから「姫」と煽ているのかな、と。きっとこの恋人のことも愛しているのでしょう。でも時には浮気をしたくなるのかも。

    • 山川 信一 より:

      なるほど、そうかもしれませんね。他にも恋人がいてもこの人もキープしておきたい。そんな気持ちでしょうか。十分にあり得ますね。ましてや遠距離恋愛なら。

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