《触覚に訴える》

寛平御時きさいの宮の歌合のうた 紀とものり

ささのはにおくしもよりもひとりぬるわかころもてそさえまさりける (563)

笹の葉に置く霜よりもひとりぬる我が衣手ぞ冴え勝りける

「寛平御時の后の宮の歌合の歌 紀友則
笹の葉に置く霜よりも一人寝る私の袖こそが冷たさが勝っている。」

「(衣手)ぞ」は、係助詞で強調を表し係り結びとして働き文末を連体形にする。「(勝り)ける」は、詠嘆の助動詞「けり」の連体形。
笹の葉に霜が置く季節になりました。しかし、その霜よりも一層冷たいのがわたしの袖です。一人で寝ることの何と侘しいことでしょう。あなたのぬくもりが恋しくてなりません。
季節が秋を飛び越して冬になっている。この歌合の友則の歌には、春と秋が無い。春と秋には、恋の侘しさ切なさをイメージできる風物が見当たらなかったのだろうか。この歌では、季節感を取り入れ、笹の葉に置く霜をイメージさせることで独り寝の侘しさを触感として訴えている。また、霜の白により冷たさを感じさせている。
歌の発想としては、あまり新しさが感じられない。個性にも欠ける。しかし、歌の調べはよどみないし、表現も洗練されている。編集者は、発想表現の両面に於いてあるべき歌の型を示そうとしたのだろう。

コメント

  1. すいわ より:

    恋の火から一転、一気に温度を下げてきて歌集の流れに緩急を付けたかったのでしょうか。落差のせいで寒々しさをより感じさせます。笹の葉の葉脈は頬を伝った涙の跡を想わせなくもない。表現は平凡かもしれませんが霜降る季節の寒さに勝る独寝の肌寒さは伝わります。恋の歌としては弱いようにも思えますが。

    • 山川 信一 より:

      寒暖の落差を利用しているとも言えそうですね。また、笹の葉の葉脈が涙の跡とは思いませんでした。なるほど!
      友則は、『古今和歌集』が推奨する型どおりの歌を歌う人だったような気がします。選者ですからね。

  2. まりりん より:

    ヒヤッと冷たい袖。我が身も冷えて寒さで凍えてしまう。寒さで眠れず、あなたに温めてほしい、、という気持ちが伝わってきます。

    • 山川 信一 より:

      友則の歌は、内容も表現も抑えめですが、それがかえって読み手の心(女心)を捉えそうですね。恋の歌は、抑えめ、控えめである方が効果がありそうですね。

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