《心は共に》

題しらす よみ人しらす

かきりなきくもゐのよそにわかるともひとをこころにおくらさむやは (367)

限りなき雲ゐのよそに別るとも人を心におくらさむやは

「限りない雲の彼方に別れても人を心に残し置こうか。」

「(おくらさ)むやは」の「む」は、意志の助動詞「む」の終止形。「や」「は」は、共に終助詞で反語を表す。
私はこれから遠い空のように限りなく遠く離れた所に旅立ちます。しかし、お別れしても、あなたを私の心に留めます。どうして、一緒に連れて行かず、後に残して置きましょうか。決してそんなことはありません。心の中にあなたを留め、連れて参ります。私は、これからもずっと、あなたと共におります。
残し置く人を気づかう思いを詠んでいる。どんなに遠く離れ離れになっても心は一緒だと言う。「限りなき雲ゐのよそ」と物理的距離の遠さを強調することで、対照的に心理的距離の近さを印象づけている。「やは」と最後に反語を置くことで、思いを最後まで言い切らず読み手に答えを求め、読み手を引き寄せている。
あたかも、前の歌の返歌にも思えてくる。編集の妙である。

コメント

  1. まりりん より:

    私はこれから遠く離れた所に行くけれど、心は離れない、いつも貴女を思っています、と言っているのですね。暖かな気遣いに、待つ身も少しは慰められるでしょうか。
    本当に、前の歌の返歌のようですね。

    • 山川 信一 より:

      心が伝わるといいですね。歌に物語が感じられますね。編者の思いが伝わってきます。

  2. すいわ より:

    前の歌からのこの歌、心に沁みます。編集する人の優しさを感じさせます。けれど、これ、本来セットの歌ではないのですね。セットだったら「人」ではなく「君」なのでしょうから。

    • 山川 信一 より:

      前の歌への救いを表現したのですね。優しさに同感します。「君」が選ばれなかったのは、相手を遠い存在に感じてしまうからでしょうか。

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