「けり」の意味 ~確認~

「男ありけり」などの「けり」はその動作が過去のものであることを表す。たとえば、「男ありけり」なら、男がいることが過去のことであることを表す。つまり、「けり」は過去の助動詞である。
 ただし、話し手はこの動作を実際に経験していない。ただ、それが確かに過去の事実であると認めているだけだ。つまり、過去の事実だと〈確認〉してるのだ。そして、〈
確認〉した時には、感動を伴うこともあろう。「あっ、そうなんだ!」って。それが〈詠嘆〉である。だから、「けり」が〈詠嘆〉も表すこともある。
「けり」は現代語にも残っている。たとえば、あることに気がついた時や何かを確認する時に「そう言えば、こんなことがあったっけ。」「こうだったっけ?」と言ったりする。その「あったっけ」の「け」は「けり」を意識した言葉である。
「けり」が〈確認〉を表すのに対して、実際に経験したことは「き」で表す。「ありき」と言えば、話し手が実際に経験したことだ。
 古語では、こんな使い分けがなされていた。現代語は、どちらも「た」で済ませている。昔の人は、現代人よりずっと細やかな精神を持っていたのだろう。

コメント

  1. すいわ より:

    「家に風邪薬あったっけ?」とメール画面に打ち込んだのを見たときに、いつも何気なく使っている言葉が文字になった途端、とても奇妙に感じられたのは、つい数日前の事。「け」って何?と。「けり」を意識した言葉だったのですね。
    今も形を留めているのですね。
    「たそがれ」は今も使いますが、「かはたれ」は余程聞かれません。生活が夜型になった、と言うことなのでしょうか。
    どこかの地方では、トンボを今でも「あきつ」と呼ぶと聞いたことがあります。「実は古い言葉」を探して見たくなりました。

    • 山川 信一 より:

      古文を外国語のように学べという先生もいます。たとえば、古典的名著『古文研究法』の小西甚一先生など。
      しかし、わたしはそうは考えていません。古文も日本語です。母語としての勘を働かせて読むべきです。
      言葉はつながっています。それを意識すると、古文が身近になります。

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