2020-07

古典

われをば見棄て玉はじ

かはゆき独り子を出し遣る母もかくは心を用ゐじ。大臣にまみえもやせんと思へばならん、エリスは病をつとめて起ち、上襦袢《うはじゆばん》も極めて白きを撰び、丁寧にしまひ置きし「ゲエロツク」といふ二列ぼたんの服を出して着せ、襟飾りさへ余が為めに手づ...
古典

故郷よりの文なりや

今朝は日曜なれば家に在れど、心は楽しからず。エリスは床に臥《ふ》すほどにはあらねど、小《ちさ》き鉄炉の畔《ほとり》に椅子さし寄せて言葉寡《すくな》し。この時戸口に人の声して、程なく庖厨《はうちゆう》にありしエリスが母は、郵便の書状を持て来て...
古典

明治廿一年の冬は来にけり

明治廿一年の冬は来にけり。表街《おもてまち》の人道にてこそ沙《すな》をも蒔《ま》け、鍤《すき》をも揮へ、クロステル街のあたりは凸凹《とつあふ》坎坷《かんか》の処は見ゆめれど、表のみは一面に氷りて、朝に戸を開けば飢ゑ凍《こゞ》えし雀の落ちて死...