古典

咳枯れたる老媼の声

人の見るが厭はしさに、早足に行く少女の跡に附きて、寺の筋向ひなる大戸を入れば、欠け損じたる石の梯あり。これを上ぼりて、四階目に腰を折りて潜るべき程の戸あり。少女は鏽《さ》びたる針金の先きを捩《ね》ぢ曲げたるに、手を掛けて強く引きしに、中には...
古典

君が家に送り行かん

「君が家《や》に送り行かんに、先《ま》づ心を鎮《しづ》め玉へ。声をな人に聞かせ玉ひそ。こゝは往来なるに。」彼は物語するうちに、覚えず我肩に倚りしが、この時ふと頭《かしら》を擡《もた》げ、又始てわれを見たるが如く、恥ぢて我側を飛びのきつ。 「...
古典

我を救ひ玉へ、君。

彼は驚きてわが黄なる面を打守りしが、我が真率なる心や色に形《あら》はれたりけん。「君は善き人なりと見ゆ。彼の如く酷《むご》くはあらじ。又《ま》た我母の如く。」暫し涸れたる涙の泉は又溢れて愛らしき頬《ほ》を流れ落つ。「我を救ひ玉へ、君。わが恥...