古典

卑怯な危惧と刻苦を厭う怠惰

人間は誰でも猛獣使であり、その猛獣に当るのが、各人の性情だという。己《おれ》の場合、この尊大な羞恥心が猛獣だった。虎だったのだ。これが己を損い、妻子を苦しめ、友人を傷つけ、果ては、己の外形をかくの如く、内心にふさわしいものに変えて了ったのだ...
古典

憤悶と慙恚

己《おのれ》の珠《たま》に非《あら》ざることを惧《おそ》れるが故《ゆえ》に、敢《あえ》て刻苦して磨《みが》こうともせず、又、己の珠なるべきを半ば信ずるが故に、碌々《ろくろく》として瓦《かわら》に伍することも出来なかった。己《おれ》は次第に世...
古典

「臆病な自尊心」と「尊大な羞恥心」

何故《なぜ》こんな運命になったか判らぬと、先刻は言ったが、しかし、考えように依《よ》れば、思い当ることが全然ないでもない。人間であった時、己《おれ》は努めて人との交《まじわり》を避けた。人々は己を倨傲《きょごう》だ、尊大だといった。実は、そ...