古典

慟哭の声

漸く四辺《あたり》の暗さが薄らいで来た。木の間を伝って、何処《どこ》からか、暁角《ぎょうかく》が哀しげに響き始めた。 最早、別れを告げねばならぬ。酔わねばならぬ時が、(虎に還らねばならぬ時が)近づいたから、と、李徴の声が言った。だが、お別れ...
古典

月に向かって咆える虎

己には最早人間としての生活は出来ない。たとえ、今、己が頭の中で、どんな優れた詩を作ったにしたところで、どういう手段で発表できよう。まして、己の頭は日毎《ひごと》に虎に近づいて行く。どうすればいいのだ。己の空費された過去は? 己は堪《たま》ら...
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卑怯な危惧と刻苦を厭う怠惰

人間は誰でも猛獣使であり、その猛獣に当るのが、各人の性情だという。己《おれ》の場合、この尊大な羞恥心が猛獣だった。虎だったのだ。これが己を損い、妻子を苦しめ、友人を傷つけ、果ては、己の外形をかくの如く、内心にふさわしいものに変えて了ったのだ...