古典

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第百五段    逢瀬を覗き見る

北の屋かげに消え残りたる雪の、いたう凍りたるに、さし寄せたる車の轅も、霜いたくきらめきて、有明の月さやかなれども、隈なくはあらぬに、人離れなる御堂の廊に、なみなみにはあらずと見ゆる男、女となげしに尻かけて、物語するさまこそ、何事にかあらん、...
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《桜に包まれて》

山てらにまうてたりけるによめる つらゆき やとりしてはるのやまへにねたるよはゆめのうちにもはなそちりける (117) 宿りして春の山辺に寝たる夜は夢の内にも花ぞ散りける 「山寺にお参りしていた時に詠んだ  貫之 旅先で泊まって、春の山寺に寝...
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第百四段  ある人の思い出話

荒れたる宿の、人目なきに、女のはばかる事あるころにて、つれづれと籠り居たるを、或人、とぶらひ給はんとて、夕月夜のおぼつかなきほどに、忍びて尋ねおはしたるに、犬のことことしくとがむれば、下衆女の出でて、「いづくよりぞ」と言ふに、やがて案内せさ...