古典

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第百六十八段  老人のたしなみ

年老いたる人の、一事すぐれたる才のありて、「この人の後には、誰にか問はん」など言はるるは、老の方人にて、生けるも徒らならず。さはあれど、それも廃れたる所のなきは、一生この事にて暮れにけりと、拙く見ゆ。「今は忘れにけり」と言ひてありなん。大方...
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《華やかな苦しさ》

なぬかの日の夜よめる 凡河内みつね たなはたにかしつるいとのうちはへてとしのをなかくこひやわたらむ (180) 七夕に貸しつる糸の打ちはへて年のを長く恋ひや渡らむ 「七日の日の夜に詠んだ  凡河内躬恒 七夕姫に供えた糸を長く長くと引き延ばす...
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第百六十七段  長所の短所

一道に携る人、あらぬ道のむしろに臨みて、「あはれ、わが道ならましかば、可くよそに見侍らじものを」と言ひ、心にも思へる事、常のことなれど、よにわろく覚ゆるなり。知らぬ道のうらやましく覚えば、「あなうらやまし。などか習はざりけん」と言ひてありな...