山川 信一

古典

第百三段 ~歌のたしなみ~ 

昔、男ありけり。いとまめにじちようにて、あだなる心なかりけり。深草の帝になむ仕うまつりける。心あやまりやしたりけむ、親王たちのつかひたまひける人をあひいへりけり。さて、 寝ぬる夜の夢をはかなみまどろめばいやはかなにもなりまさるかなとなむよみ...
古典

第百二段 ~恋が終わっても~

昔、男ありけり。歌はよまざりけれど、世の中を思ひしりたりけり。あてなる女の、尼になりて、世の中を思ひうんじて、京にもあらず、はるかなる山里にすみけり。もとしぞくなりければ、よみてやりける、 そむくとて雲には乗らぬものなれど世の憂きことぞよそ...
古典

第百一段 ~歌の仕掛~

昔、左兵衛の督(かみ)なりける在原の行平といふありけり。その人の家によき酒ありと聞きて、上にありける左中弁藤原の良近といふをなむ、まらうどざねにて、その日はあるじまうけしたりける。なさけある人にて、かめに花をさせり。その花のなかに、あやしき...