《恋人を慰める》

おもひに侍りける人をとふらひにまかりてよめる たたみね

すみそめのきみかたもとはくもなれやたえすなみたのあめとのみふる (843)

墨染めの君が袂は雲なれや絶えず涙の雨とのみふる

「喪に服しておりました人を弔問にいって詠んだ 忠岑
墨染めの君の袂は雲であろうか。絶えず涙の雨とばかり降ることだ。」

「(雲)なれや」の「なれ」は、助動詞「なり」の已然形で断定を表す。「や」は、終助詞で疑問を表す。「(雨)とのみ」の「と」は、格助詞で状態を表す。「のみ」は、副助詞で限定を表す。
あなたが着ている喪服の袂は雲なのでしょうか。まるで雲みたいですね。だって、涙が雨とばかりに降るのですから。あなたのお悲しみがどれほどのものかよくわかりますよ。
作者は、悲しみにある恋人を慰めようとしている。
「君」とあるから作者にとってこの人は恋人である。恋人は肉親の喪に臥しているのだろう。いつまでもその死の悲しみから抜け出せないでいる。そこで恋人を弔問した作者は、優しく慰めている。躬恒は「喪服の解れた糸」など身近な物から発想するようだ。この歌も「墨染めの袂」を「雲」にたとえ、「涙の雨」へと展開する。このたとえは単純でわかりやすい。抵抗のない歌に仕立てている。これは精神的に弱っている人への配慮であろう。歌もコミュニケーションの手段であることに変わりはない。だから、その場、その人にふさわしい表現を用いなければならない。それを抜きにして、歌の優劣は付けられない。編集者は、そのことを伝えているのだろう。

コメント

タイトルとURLをコピーしました