《待つわ》

題しらす よみ人しらす

きみこすはねやへもいらしこむらさきわかもとゆひにしもはおくとも (693)

君来ずは閨へも入らじ濃紫我が元結ひに霜は置くとも

「題知らず 詠み人知らず
君が来ないなら、寝室へも入るまい。濃紫色の私の元結いに霜が置いても。」

「(来)ずは」の「ず」は、打消の助動詞「ず」の連用形。「は」は、係助詞で仮定を表す。「(入ら)じ」は、打消推量の助動詞「じ」の終止形。「(置く)とも」は、接続助詞で「たとえ・・・しても」と条件を表す。
あなたが来ないのなら、家へは入りません。もちろん、寝室にも入るつもりはありません。たとえ、濃紫色をした私の髪留めに白い霜が置いたとしても。ずっと、あなたがいらっしゃるのをいつまでも外でお待ちしています。
やって来ない男に贈った歌である。寒い中、来るまで家の外で待つと言うことで、男に来ることを催促している。
この歌も男を待つ女の歌である。「濃紫」とあるから高貴な身分の女である。また、夜の闇の黒、濃紫の元結い霜の白と色の対照が鮮やかである。これによって、リアリティを生み出している。しかも、「我が元結ひに霜は置くとも」は、状況によって、一晩とも季節を超えてとも読める。男を待つ思いのほどをどう表すかに工夫が見られる。編集者はこれらの点を評価したのだろう。

コメント

  1. まりりん より:

    寒い中一晩中あなたを外で待っていて寒さに凍え死んでしまうかも知れない。やや脅迫めいた印象を受けます。前の歌のふんわりした感じと対照的ですね。「濃紫」で高貴な身分とわかってしまう。よみ人知らずなのに、バレても構わないということでしょうか。

    • 山川 信一 より:

      確かに、前の歌とは対照的ですね。編集者の意図が感じられます。編集の妙を感じます。作者が「濃紫」を出してきたのは、高貴な自分を印象づけたかったのでしょう。ちなみに、「詠み人知らず」としたのは、編集者ですから作者の与り知らぬところです。

  2. すいわ より:

    私を差し置いてあなたはどちらへいらしたのかしら?格下のあの女の所でぬくぬくとしている頃、私は寝屋にも入らず夜を明かし寒い朝の霜置くまででも外で貴方を待っていてよ、、。「君」ですからね、元結の色まで出しているあたり本妻?さて、どう執りなすやら。

    • 山川 信一 より:

      なるほど、「濃紫」をこう読み解きましたか。高貴な私を差し置いて、身分の低い女のところへ通うなんて許せないと。本妻の思いを読むと納得できますね。

タイトルとURLをコピーしました