《肌のぬくもり》

題しらす 素性法師

あきかせのみにさむけれはつれもなきひとをそたのむくるるよことに (555)

秋風の身に寒ければつれもなき人をぞ頼む暮るる夜ごとに

「秋風が身に寒いので冷たい人を頼りにする。日が暮れる夜ごとに。」

「寒ければ」の「ば」は、接続助詞で原因理由を表す。「(人を)ぞ」は、係助詞で強調を表し係り結びとして働き文末を連体形にする。「頼む」は、四段活用の動詞「頼む」の連体形。以下は、倒置になっている。
秋風がこの身に冷たく感じられます。こんな時は人肌が恋しくなります。あなたと共寝をした時のぬくもりが恋しくてなりません。だから、あれ以来逢っていただけない冷たいあなたをあてにしてしまいます。日が暮れると、毎晩毎晩。
一度逢った恋人がその後態度を変えて逢ってくれない。その人に、秋風の冷たさを引き合いにして、かつての逢瀬の肌のぬくもりを思い出させている。秋風の冷たさは、恋人もわかっているはずだ。ならば、温め合おうと言うのである。
触覚に訴える歌である。「身」「暮るる夜」によって、相手にかつて共寝をしたときの肌のぬくもりを連想させる。編集者はこの語句の用い方の巧みさを評価したのだろう。

コメント

  1. まりりん より:

    ぽつんと独り取り残されて、体を冷たい風が吹き抜けていくような、寂しさを感じる歌です。恋しい人はもう逢ってはくれないのか、、不安な夜をあといく日過ごすのだろうか。。

    • 山川 信一 より:

      前の歌とは「人肌」繋がりですね。しかし、どちらの歌にも「肌」の語は出てきません。それでいて、肌を感じさせています。寂しさは肌で感じるものなのでしょう。触覚は寂しさに繋がりますね。

  2. すいわ より:

    (飽きられたこの身にとって)深まる秋の肌寒さはいつにも増して身に染みるもの、あれ以来冷淡なあなたでさえ頼みにしてしまう。夜が来る度に、日毎つのる寒さに耐えかねて、、、。
    ?これだと待つ身の歌になってしまいますね。あなたは私をこんな風に思って下さっているだろうか?今はもう通える身ではなくなってしまったけれど、肌寒さが増せばこそあの日の温もりが呼び覚まされます、、こんな感じなのでしょうか。

    • 山川 信一 より:

      この歌は、男の素性法師が詠んでいます。しかし、詞書は「題知らず」ですから、女性の気持ちになって読んだとも考えられます。私は一応男の立場で解釈しましたが、冷たい男を待つ気持ちの方がしっくりきますね。

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