題しらす 読人しらす
あけたてはせみのをりはへなきくらしよるはほたるのもえこそわたれ (543)
明け立てば蝉のをりはへなき暮らし夜は蛍の燃えこそ渡れ
「夜が明けると蝉がずっと長く鳴くように泣き暮らし、夜は蛍が光るように恋心が燃え続けるが・・・。」
「明け立てば」の「明け」は、名詞。「ば」は、接続助詞で恒常的条件を表す。「蝉の」は、「なき暮らし」の枕詞。「なき」は、「鳴き」と「泣き」の掛詞。「蛍の」は、「燃え」の枕詞。「こそ」は、係助詞で強調を表し係り結びとして働き文末を已然形にし以下に逆接で繋げる。「渡れ」は、四段活用の動詞「渡る」の已然形。
季節が巡り夏になりました。けれど、私のあなたへの思いは変わりません。夜が明ければ、ずっと鳴き続ける蝉のようにあなたを思って泣き続けています。夜は夜で、光り続ける蛍のようにあなたへの情念が燃え続けています。それなのに、あなたはこんな私を少しもわかってくれないのですね。
作者は、恋人も必ず見聞きするはずの夏の風物を利用して恋心を訴えた。この歌によって「蝉の声」と「蛍の光」に特別の意味を与える。そのために、この歌を読んだ恋人は、蝉の声も蛍の光も作者を意識することなく見聞きすることができなくなる。したたかな戦略である。
前の歌とは季節繋がりである。春から夏に変えた。春には春の、夏には夏の恋の歌がある。この歌では「蝉」と「蛍」という虫を上手く使っている。昼も夜も恋人を思う様子が印象づけられている。編集者は、この歌が〈昼・蝉〉と〈夜・蛍〉を対照しつつ聴覚・視覚に訴え、「こそ」の係り結びで余韻を持たせている点を評価したのだろう。
コメント
「夏」という季節にあわせて恋心の状態も更にエスカレートして行く。激しく、そして苦しい恋。何処にいても昼でも夜でも夏はあなたを追いかけて来る。これであなたは私の存在を常に意識せざるを得ない、、。攻めますね。相思相愛なら「いつでも君のことを思っているよ」というメッセージになるけれど、思いを投げかけている段階であまり追い詰めると相手が逃げ出してしまいそう。
この歌は「相思相愛」なら有効ですが、相手を口説くには不似合いですね。あまり相手を追い詰めてはいけませんね。
春から夏に季節が進みましたね。昼は鳴き続ける蝉のように、夜は光り続ける蛍のように、、1日中ずっと、片時も途切れることなくあなたを思い続けています、と。聴覚と視覚に訴えているところは印象的ですが、少々くどさを感じます。私だったら逃げたくなるかな。。
同感です。多分男の歌でしょうが、女の歌だとしても男は逃げたしたくなることでしょう。