《秋の恋》

題しらす 読人しらす

あきのののをはなにましりさくはなのいろにやこひむあふよしをなみ (497)

秋の野の尾花に混じり咲く花の色にや恋ひむ逢ふ由を無み

「秋の野のススキに交じり咲く花のように心を表して恋しようか。逢う術がないので。」

「秋の野の尾花に混じり咲く花の」は、「色」を導く序詞。「(色に)や」は、係助詞で疑問を表し係り結びとして働き文末を連体形にする。「(恋ひ)む」は、意志の助動詞「む」の連体形。ここで切れる。「由を無み」は、「み語法」と言われる表現である。「名詞+(を)+形容詞の語幹+み」で、原因理由や状態を表す。
季節は秋になり、ススキに穂が出ています。それに交じって咲いている花は、色彩が目立って見えます。その花のように私も心に思っていることを面に出してしまいましょうか。もうつらくてなりません。こうして心に込めて恋しているだけで、あなたにお逢いできる方法が無いのですから。
恋人を思っているうちに季節がいつの間にか秋になっていた。ススキが穂を出している。その中でまだ咲いている花がある。その色は殊更目立つ。作者は、それをたとえに使って、恋心を表した。もう恋心をうちに秘めておくことができない、感情を顔に出してしまいそうだと訴え、何とかあってほしいと迫る。恋は秘め事であるから、これでは相手も逢わずにいられなくなる。恋は二人だけの秘め事なのだから。
恋は季節と共にある。この歌は、秋の恋を詠んでいる。植物を序詞に用いた歌のバリエーションの一つである。

コメント

  1. すいわ より:

    一面の白い芒の原。その中にただ一点の色。秋風に揺れる芒は「こちらへ」と手招きするよう。ほら、もう隠してはおけない。さあ、この一点を的として、「せめていよかし」という気持ちでしょうか。逢えぬのならこの心、射抜かれて死んでしまいたい、どうする?と、、。逢えぬまま季節は巡り、恋人たちの姿を隠してくれる程に芒の穂は高く伸びた。舞台は整っている、さあ、どうする?と。

    • 山川 信一 より:

      穂の出た一面の白いススキの原。その中に咲く赤い秋の花。これは実景でもあり、心の風景でもあるのですね。赤い花は、作者の燃える恋心。もう隠しようがありません。どうか他には知られぬうちに受け入れてください。あなただけが気づいているうちに。すいわさんの鑑賞を読んでこんなことを思いました。

  2. まりりん より:

    季節が進んで一面ススキの穂が見渡せる様になっても、私の心に咲く花は一層艶やかさを増しもう隠しきれません。 
    一面のススキは恋の苦しみ、会えない寂しさを現しているよう。紅一点の花が唯一の心の支えでしょうか。

    • 山川 信一 より:

      一面のススキは、恋の苦しみに耐えるだけの日常なのです。傍から見れば、地味で味気なく見えることでしょう。しかし、その中に咲く赤い花こそが作者の本心です。もう隠しようがありません。

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