あふひ、かつら よみ人しらす
ひとめゆゑのちにあふひのはるけくはわかつらきにやおもひなされむ (434)
人目ゆゑ後に逢ふ日の遙けくは我が辛きにや思ひなされむ
「人目から後で逢う日が遠のくことは私の薄情さに思いなされるのだろうか。」
「遙けく」は、形容詞「遙けし」の連用形で名詞になっている。「(辛きに)や」は、係助詞で疑問を表し係り結びとして文末を連体形にする。「(思ひなさ)れむ」の「れ」は、受身の助動詞「る」の未然形。「む」は推量の助動詞「む」の連体形。
人目を憚るためになかなかお逢いすることができません。でも、この後逢う日が遠い先になったら、あなたに誤解されて、私は薄情な男だと決めつけられるでしょうか。これも私がこの恋を大切にしているからなのです。私は決して薄情な男ではありませんよ。
前の歌の男からの返しになっている。女の恨み言を踏まえて言い訳している。既に足が遠のいているのに、「逢ふ日の遙けくは」と仮定の言い方をしている。この言い方には、更にしばらく行けないという含みがある。二人は許されない関係にあったのかもしれない。しかし、そうでなくても、恋は妬まれやすく、邪魔が入りやすい。したがって、人目につかず行うべきものである。男はこの恋の普遍的実相を言い訳に使っている。
ここで、なぜこの二つの植物を選んだのかを改めて考えてみると、「あふひ」は、太陽を、「かつら」は、月を連想させる。男女のすれ違いを暗示しているのだろう。
さて、今回は、男か女かのどちらかの立場で「あふひ」と「かつら」を詠み込んだ歌を作ってみよう。では、私は男の立場から。
*逢ふとても逢ふ日が辛くなることも逢はず恋しくある日勝れり
逢えない時間も恋なのだと。
コメント
また、ハードルを上げてきますね、、。
逢ふとても逢ふ日が辛くなることも逢はず恋しくある日勝れり
大人の恋ですね。
では幼い恋を。
夢の中辛き別れに目の覚めて現に逢ふ日御手の離せず
上手です。「ゆめ」と「うつつ」を対照していますね。「御手の離せず」が控えめでいいですね。それでいて、女の素直な思いを表しています。
すごい!きちんと物名二つを読み込んで返しているのですね。この言い訳、腹立たしくもありますが、歌の技術に免じて許してしまいたくなります。
では、私は女性の立場から。
君とまた会う日を夢に耐え抜かむ いつか辛きしこの日々終えむ
(背景が少々飛躍しますが、、)
罪を犯して刑務所に入った夫を待つ妻。周囲の冷酷な視線に耐えながら、夫が刑期を終えて出所する日を心待ちにしている。
そう来ましたか。背景が具体的でいいですね。『古今和歌集』は、歌のお手本なのでしょう。こうして作ってみることで歌の技術を鍛えてくれます。頑張って作っていきましょう。
ただ「辛きし」はちょっと苦しい。過去の助動詞「し」と「この日」の現在が合いません。ここは「辛かる」でしょうか。