《初雁の声》

はつかりをよめる  在原元方

まつひとにあらぬものからはつかりのけさなくこゑのめつらしきかな (206)

待つ人にあらぬものから初雁の今朝鳴く声の珍しきかな

「初めての雁を詠んだ 在原元方
待つ人でないものの、初雁の今朝鳴く声の珍しいことよ。」

「ものから」は接続助詞で、逆接の意を表す。「かな」は詠嘆の終助詞。
雁は、私が待っている人ではないけれど、初雁の今朝鳴く声が、待っている人に対して感じるのと同じように、珍しく聞こえてくることだなあ。
初雁がやって来た。その声を珍しいと感じる。ああ、またこの季節が来た、秋がまた一歩深まっていくと思う。何とも新鮮な気分になる。作者は、こうした気分を、待っている人が来てくれて、その声を聞いた時の、あの気分に似ていると言うのである。この発見に、作者の独創性がある。それにより、読み手と思いを共有することができるようになる。

コメント

  1. すいわ より:

    この秋初めて聞く雁の鳴き声にハッとさせられる。毎年来る雁なのに、この気持ちの高揚感。あぁ、渡鳥のようになかなか来ることのない君がひょっこり訪ねてきた時のあの気持ちか、、。変わらぬものが新鮮に感じられる朝。こんな形で新しい秋を発見するのですね。

    • 山川 信一 より:

      文芸上の発見とは、似ていることの発見なのでしょう。それまでは無関係に思えた出来事を結びつけるものが文芸なのです。読み手は、これ以後、初雁の声にこのような思いを抱くようになります。

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