《華やかな苦しさ》

なぬかの日の夜よめる 凡河内みつね

たなはたにかしつるいとのうちはへてとしのをなかくこひやわたらむ (180)

七夕に貸しつる糸の打ちはへて年のを長く恋ひや渡らむ

「七日の日の夜に詠んだ  凡河内躬恒
七夕姫に供えた糸を長く長くと引き延ばすように長い間恋い続けるのだろうか。」

「七夕に貸しつる糸の」は「打ちはへて」の序詞。「貸しつる」の「つる」は意志的完了の助動詞「つ」の連体形。「打ちはへて」は、掛詞で、「糸を長く引き延ばして」と「時間的にずっといつまでも」を掛ける。「年のを」の「を(緒)」は、「糸」の縁語で、長く続く意を表す。「恋や」の「や」は、疑問の係助詞で、係り結びとして働いている。「渡らむ」の「む」は、推量の助動詞の連体形。
今日は、七夕、乞巧奠(きこうでん)である。女子たちは、芸能の上達を願い、糸を供えて七夕を祭る。そのなんと美しいことか。だけど、その糸を長く引き延ばすように、私はずっと長く何年も何年も七夕姫を恋い続けるのだろうか。
牽牛の気持ちになって、七夕の夜の思いを詠んでいる。七夕の夜は華やかではあるけれど、これからを思うと、牽牛は、その辛さ・苦しさが交錯して、喜びに浸りきれないに違いないと。
それを通して、七夕の夜が人々の想像力を膨らませる特別な夜だという、その季節感を表している。

コメント

  1. すいわ より:

    七夕、五色の短冊は昔は五色の糸だったと聞いたことがあります。織女に捧げられた五色の糸。織られる錦は一夜で織り終えるはずもなく、忍耐強く、ひたすら長い時間をかけて織られていく。待つ辛さは牽牛も同じ。途方もなく長い糸が織り上がるまでこの恋は続くのだろうか?
    でも、錦は纏う為に織られるもの。二人を彩る衣となって縁を結ぶことを願いましょう。
    織女の織る錦がこれから秋を彩る紅葉をイメージさせます。

    • 山川 信一 より:

      なるほど、こんな風に想像が広がっていくのですね。昔も今も七夕は、人々の想像力を掻きたててくれますね。その一端を見せてもらいました。

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