《山の桜も散り始める》

春哥下

題しらす よみ人しらす

はるかすみたなひくやまのさくらはなうつろはむとやいろかはりゆく (69)

春霞棚引く山の桜花移ろはむとや色変はり行く

「春霞が棚引く山の桜花は散ろうとするのか色が変わってゆく。」

この歌から「春哥下」が始まる。題材は、桜が散ることが中心になる
春霞が棚引く山を京から眺めている。すると、今までとは少し色が違って見える。それは恐らく桜が散り始めているからだと言う。「色」という言葉によって、「春霞」「桜花」の淡い微妙な色合いが強く意識される。
身近な桜は、疾うに散ってしまった。そこで、遠くに見える山の桜を思い慰めていた。しかし、それも遂に散る時期になってしまった。そんな季節の移ろいを惜しむ気持ちを詠んでいる。
音読してみると、歌の調べの穏やかさ滑らかさがわかる。この時のささやかな諦念の混じるうっすらとした悲しみを表しているようだ。

コメント

  1. すいわ より:

    はるか彼方、山にたなびく白い白い春霞。花時の終わりと共に色が変わって行くように見えるのは、風に舞い散る桜の花びらが名残りの春を染めるからか。この仄かな色が薄ら悲しいです。

    • 山川 信一 より:

      春霞棚引く山の桜の色合いの微妙な変化を見逃さない、作者の感性の鋭さに脱帽です。
      「風に舞い散る桜の花びらが名残りの春を染めるから」という見方もいいですね。

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