《郊外の春の朝》

題しらす   よみ人しらす

のへちかくいへゐしせれはうくひすのなくなるこゑはあさなあさなきく (16)

野辺近く家居しせれは鶯の鳴くなる声は朝な朝な聞く

家居しせれは:「し」は、強意の副助詞。「せ」は、サ変動詞「す」の未然形。「れ」は、存続の助動詞「り」の已然形。
鳴くなる:聴覚による推定の助動詞「なり」の連体形。
朝な朝な:朝ごとに。毎朝。「夜な夜な」の対。

「野原近くに家を構えて住んでいるので、鶯が鳴いていると思われる声は毎朝聞く。」

毎朝、鶯の声に目が覚める。今日一日が喜びと共に始まる。何とも羨ましい理想的な春の朝だ。都会に住むとこうはいかない。郊外に住む者の特権である。便利さと自然とが相容れないのは、今も昔も変わらない。どちらを選択するか、難しいところだ。

コメント

  1. すいわ より:

    「うくひすなくなる」、きっと様々な鳥の声が遠く近くに聞こえる中、鶯の声も聞き留めることが出来るのでしょう。都会では春告げ鳥として鶯がクローズアップされるけれど、鄙においては朝の訪れの度に鶯だけでなく鳥たちは歌って、そこには特別でない「特別」があるのですね。

    • 山川 信一 より:

      春を告げる鳥と言えば「ウグイス」、夏を告げる鳥と言えば「ホトトギス」と、決まっていたようです。他の鳥の声は耳に入らないのでしょう。

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