《小さな気付き》

題しらす/ある人のいはく、この歌はさきのおほいまうち君のなり よみ人しらす

かきりなききみかためにとをるはなはときしもわかぬものにそありける (866)

限りなき君がためにと折る花は時しも分かぬ物にぞありける

「題知らず 詠み人知らず/ある人が言うことには、この歌は先の太政大臣の歌である
命の限り無いあなたのためにと折る花は時も区別の無いものであったことだなあ。」

「(時)しも」は、副助詞で強意を表す。「(分か)ぬ」は、助動詞「ず」の連体形で打消を表す。「(物)にぞありける」の「にぞあり」は、断定の助動詞「なり」を「に+あり」に分解して間に係助詞の「ぞ」を挟んだもの。「ける」は、助動詞「けり」の連体形で詠嘆を表す。
お命の限り無いあなたのために花を折って参りました。この花はあなたと同様に時も区別しないでいつまでも咲く花でありましたよ。
作者は、季節外れに咲いた返り花か造花にこと寄せて、相手の長寿を言祝いでいる。
この歌は「賀の歌」である。前の歌とは、喜び繋がりで、贈り物の方向が逆になっている。「花」が出て来るから季節は春。この「賀」は年賀だろう。けれども、「賀の歌」の巻に載せるほど畏まっていない。肩の力の抜けた歌である。そこで「雑歌」に載せた。贈る物が折った花だという事実から判断すると、この「君」は、作者の主人と言うよりは、恋人などの身近な親しい人だろう。その「花」が「時しも分かぬ物」だったという小さな気付きによって、相手の長寿を祝い喜ぶ思いを間接的に表している。編集者は、この発想と表現を評価したのだろう。

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