《涙の色の変化》

題しらす つらゆき

しらたまとみえしなみたもとしふれはからくれなゐにうつろひにけり (599)

白玉と見えし涙も年経れば唐紅にうつろひにけり

「題知らず 貫之
真珠と見えた涙も年を経たため唐紅に変わってしまったことだなあ。」

「(見え)し」は、過去の助動詞「き」の連体形。「(経れ)ば」は、接続助詞で原因理由を表す。「(うつろひ)にけり)」の「に」は、完了の助動詞「ぬ」の連用形。「けり」は、詠嘆の助動詞「けり」の終止形。
昔、あなたにお逢いして流した喜びの涙は、真珠のように清らかな白い色をしていました。あたかも、私のあなたへの汚れ無き愛の表れのように。ところが、あなたはそんな私の心を受け入れてはくださらなくなりました。遂げられない恋の嘆きに年を経て、涙は血の色のように赤くなってしまいました。
涙の「白玉」と「唐紅」の色の変化で恋の移ろいを表現している。また、「も」で相手の心変わりを暗示している。「逢ってほしい」という思いは隠されているけれど、それでいて、極めて強いメッセージになっている。
前の歌とは涙繋がりである。この歌では、色の変化に焦点を当てている。編集者は、涙の色を題材にした歌のバリエーションの一つを、また、思いを直接言わなくてもこれだけ強いメッセージが伝えられるという題材の扱い方の手本を示したのだろう。

コメント

  1. まりりん より:

    喜びの涙が悲しみの涙に変わったことを、色の変化で表すのですね。なるほど、この様な表現の仕方も印象的です。

    • 山川 信一 より:

      色の変化を用いて、相手の心変わりを嘆いてみせています。歌には限り無い表現の可能性があることを示したのでしょう。

  2. すいわ より:

    「白玉」、真珠の涙(白)と「唐紅」(赤)。赤い丸いもので珊瑚を連想したのですが錦、、。そうか、元から赤かったのではなく「染まった」のですね。関係が変化した。ただただ焦がれていた頃の無垢な涙ではなく、情を交わした後、思惑、嫉妬といった感情混じりの血の涙。『木綿のハンカチーフ』ですね。思い人は染まってしまった、真っさらだった頃に戻りたいけれど戻れない。同じ涙でも心の色が違いますね。

    • 山川 信一 より:

      変化したのは、涙だけではなく、相手の心もなのですね。つまり、自分の純粋無垢な心も変わり、相手の自分への愛も衰えてしまったということです。「(涙)も」が利いていますね。

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