題しらす 読人しらす
わかこひをひとしるらめやしきたへのまくらのみこそしらはしるらめ (504)
我が恋を人知るらめや敷栲の枕のみこそ知らば知るらめ
「我が恋を人は知っているだろうか。枕だけが知るなら知っているだろうが・・・。」
「(知る)らめや」の「らめ」は、現在推量の助動詞「らむ」の已然形。「や」は、終助詞で反語を表す。「敷栲」は、敷物にする布。「敷栲の」は、「枕」に掛かる枕詞。「こそ」は、係助詞で強調を表し係り結びとして働き文末を已然形にし以下に逆接で繋げる。「(知ら)ば」は、接続助詞で仮定を表す。「現在推量の助動詞「らむ」の已然形。
私は恋に明け暮れ、そのつらさに涙を流しています。でも、そんな自分に必死に耐えているので、誰も私が恋をしていることなど知らないはずです。もしそれを知っているとすれば、枕だけでしょう。流す涙でびしょ濡れなのですから。しかし、もちろん、そんな私をあなたもご存じないでしょうね。
作者は、自分が人知れず恋に涙していることを訴えている。しかし、それを直接言葉にしてはいない。次の工夫が懲らされている。「枕」という題材を出して、涙と言わずそれを暗示している。「知るらめ」を繰り返して、相手に知ってほしい気持ちを表している。「こそ」による係り結びで言外の意を表している。つまり、歌の作り自体によって、気持ちをそのまま表せない今の自分を暗示しているのである。
編集者は、暗示の巧みさ「知るらめ」のリフレインによるリズムのよさを評価している。和歌は、言いたいことをすべて表さないこと、韻文としてのリズムがあることが重要だからだ。
コメント
余りの苦しさに、夜毎涙を流して枕を濡らしている。枕以外、誰にも知られる事なく。
必死に耐えている苦しみが伝わってきて切ない歌ですね。
返し
敷たへの枕のみ知る恋なれど風の音にぞ我ききにける
貴女様は必死に隠しておられますが、わたくしはお気持ちを存じておりますよ。噂はいつの間にやら流れておりますよ。
上手く出来ませんが。。
返歌を貰えたら、この男性は喜んだでしょうね。ただ、「噂」はまずい。人に知られてはならないからです。あなたの心は文字通りの風が伝えてくれたあことにしましょう。
*敷栲の枕のみ知る恋ならず君の心は夢に知らるる
「誰もが知るはずがない私の秘密。あの人は知っているだろうか、知って欲しい」なのですね。誰も知らない秘密を思い人にわかって欲しい。二人の秘密にしたい。そしてその秘密こそがあなたへの恋心。一人涙で枕を濡らす日々、思いも涙も溢れる。零れて誰かに知られる前に、、。一切泣いているとは書いていないのに、床の中で泣いている様子が思い浮かびます。
恋は二人だけの秘密。だから、あなたを思って毎夜泣いている、この心はあなたにだけわかってほしい。そんな思いのようです。