《素朴な疑問》

わらひ 真せいほうし(真静法師)

けふりたちもゆともみえぬくさのはをたれかわらひとなつけそめけむ (453)

煙立ち燃ゆとも見えぬ草の葉を誰か藁火と名付け初めけむ

「煙立ち燃えるとも思えない草の葉を誰が藁火と名付け始めたのだろう。」

「(見え)ぬ」は、打消の助動詞「ず」の連体形。「(誰)か」は、係助詞で疑問を表し係り結びとして働き文末を連体形にする。「(初め)けむ」は、過去推量の助動詞「けむ」の連体形。
煙が立って燃えているとも見えない。それなのに、この草の葉を一体誰が藁火(蕨)と名付け始めたのだろう。
恐らく「燃ゆ」と「萌ゆ」は、同語源だろう。しかし、当時は既に別語に解されていたことがわかる。「わらび(蕨)」を「藁火」の意味に受け取り、疑問を呈している。誰もが持つであろう素朴な疑問を歌にしている。ただし、物名としてはあまりに芸がない。これでは、掛詞と変わりがない。物名もそろそろ種が尽きてきたのだろうか。

コメント

  1. すいわ より:

    春の野に一斉に生えた早蕨がアラベスク模様のように揺らめいて燃えているかのように見えたのでしょうか。

    春風に若菜萌えいづ腕伸ばし陽炎擽り山わらひぬる

    • 山川 信一 より:

      いい捉え方ですね。それにしてもなぜこんな不出来な物名を載せたのでしょう。すいわさんの歌の方がよほどいい。何か、事情があったのでしょうか?
      返し  夏風に山は滴り緑増す入道雲は笑ひに堪へず

  2. まりりん より:

    なるほど、蕨が生えているのを見て、藁火と掛けた。燃えていないのにどうして「藁火」?と。確かに、掛け言葉ですよね。

    冷凍の蕨つついて「旨いね」と君と笑ひ合ふ慎ましき日々

    俵万智さん風に。
    ダブル物名にしました。

    • 山川 信一 より:

      お見事!今は冷凍の蕨もありそうですね。「君と笑ひあふ」が字余りで惜しい。「君」を「汝」にしましょうか?

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