《秋の深まり》

やまかきのき  よみ人しらす

あきはきぬいまやまかきのきりきりすよなよななかむかせのさむさに (432)

秋は来ぬ今や籬のきりきりす夜な夜な鳴かむ風の寒さに

「秋は来た。すぐに垣根の蟋蟀が毎夜鳴くだろうか。風の寒さに。」

「(来)ぬ」は、完了の助動詞「ぬ」の終止形。秋が始まったということ。「(今)や」は、係助詞で強調を表し係り結びとして働き文末を連体形にする。「きりぎりす」は、今のコオロギ。「(鳴か)む」は、推量の助動詞「む」の連体形。ここで切れる。以下は倒置になっている。
秋は来た。××××××の実がなっている。垣根の蟋蟀が夜ごとに鳴くだろうか。だって、風がこんなに寒くなってきているのだから。こうして秋が次第に深まっていく。
歌は、蟋蟀と秋風によって、秋が次第に深まっていく一面を切り取っている。題は、表には出ていないけれど、秋の情緒を感じさせるものとして背後に働いている。視覚、聴覚、触覚、更には味覚にも訴えている。ただ、嗅覚に訴えるかどうかは、読み手次第。
さて隠されているのは何だろう。

コメント

  1. すいわ より:

    「秋萩」「柿の木」、「桐」は季節が違いますね。 訪れた秋の季節感満載。歌の内容とは全く関係ないのですが、仮名の繰り返すリズムが面白くて、「き」「ま」の横棒二本が交互に続いたと思うと後半は仮名の中に「⚪︎」を含む字が続いて、縦書きに綴っていくと手の動きも楽しかったです。

    • 山川 信一 より:

      「秋萩」「桐」、確かに入っていますね。「桐」だって、季節違いとも言えないでしょう。沢山見つけましたね。素晴らしい。
      仮名に注目したのもいい着眼点です。「あきはきぬいまやまかきのきりきりすよなよななかむかせのさむさに」見た目から迫りましたね。なるほど納得しました。
      別の見方をすれば、同じ仮名を意識的に使っていますね。「き」が5回、「な」が3回、「よ」「む」「か」が2回ずつ出てきます。また、母音では、ア音が「あ」「は」「ま」「や」「か」「な」「な」「ま」「か」「か」「さ」「さ」と12回、イ音が「き」「き」「い」「き」「き」「り」「き」「り」「に」と9回出てきます。これも特徴的ですね。

  2. まりりん より:

    「かきのき(柿の木)」ですね。熟した柿の甘い香りを感じます。やはり、題と内容が関連がある方が楽しいです。
    と、思いつつも、、

    雪を掻き軒のつららを割る我の赤き手に吐く吾子の息温し

    • 山川 信一 より:

      さすがですね。さっと歌が出来ました。素晴らしい。季節が進んだということで。ただ、五句目が字余りになっています。ここは敢えて「吾子」としなくても、「子」でわかると思います。
      ただし、正解は「やまがきのき(山柿の木)」でした。こうなると、難しい。私の物名はしばらくお待ちを。

      • すいわ より:

        「やまがきのき」なのですね。山藤もそうですが、山にあったものを園芸種として育てて一般化したのかもしれませんね。山の柿、渋そう。「柿」、実を食べるのでなく、赤く陽の色に色付くのを目で楽しんでいたのかもしれませんね。

        台風の目の近付きて裏山が木の軋む音不安なる夜  
        、、苦しい

        • 山川 信一 より:

          まあ、柿ですから熟したら食べられそうです。でも、貴族は見て楽しんだのでしょう。
          「やまかきのき」を詠み込むのは難しいです。それでも、すいわさんはちゃんと歌にしています。大したものです。
          私もやっと作って見ました。*白山か黄の菊の原続く辺に霞みて見ゆる小高い丘は  苦しいです。

  3. まりりん より:

    「山柿の木」ですか。読みが甘かったです。一本取られた感じです。

    • 山川 信一 より:

      真理に到るためには「これだ」と思ったところで済まさないことが必要です。むしろ、そこから始まります。こうした態度を身に付けた人が「名・・・」と言われます。どんな分野でもそうですよね。我々も「名・・・」に近づけるよう努力しましょう。

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