《散り際の梅》

うめ よみ人しらす

あなうめにつねなるへくもみえぬかなこひしかるへきかはにほひつつ (426)

あな憂目に常なるべくも見えぬかな恋しかるべき香は匂ひつつ

「ああ、嫌だ。梅は常にあるようには見えないなあ。恋しくなるはずの香は匂いながらも。」

「(常なる)べく」は、推量の助動詞「べし」の連用形。「(見え)ぬかな」の「ぬ」は、打消の助動詞「ず」の連体形。「かな」は、詠嘆の終助詞。「(恋しかる)べき」は、推量の助動詞「べし」の連体形。「(匂ひ)つつ」は、接続助詞で反復継続を表す。
ああ、情けない。梅の花が目にいつまでもあるようには見えないことだなあ。無くなってしまった後に恋しく思われるに違いない香を匂わせながら、梅が散っていくことだ。
「あな憂目」に「梅」が入れてある。「うめ」は、二字なので物名は比較的たやすく作れると思われる。しかし、実際に試みてみると、そうでもない。「うめ」は、「梅」の字音からできた語で、和語ではない。そんなことも関係しているのだろうか。この歌は、二箇所の「べし」によって、梅が散り際であることとその梅への思いとを巧みに表している。見た目と香りとの対比は、「春の夜の闇はあやなし梅花色こそ見えね香やは隠るる」(41)を連想させる。

コメント

  1. すいわ より:

    残り香。その実態がそこから無くなっても、無いからこそ鮮明に対象への想いが増幅される。無くなると分かっているからこそ手元に置きたい。でも叶わない。
    闇でも隠すことのできないその香り。香りの導く先にその姿が無い。あるはずのものが無い。夢の中を彷徨しているような心地ですね。

    • 山川 信一 より:

      この歌は、内容としては「あるある」であって、それほどの新鮮味が感じられません。梅にまつわる一般的な思いを生かつつ、物名の歌に仕立てたところに価値があるのでしょう。

  2. まりりん より:

    梅 を、視覚と嗅覚にうったえて詠んでいますね。確かに時々見かける方法かも。散り際の梅を惜しむ気持ちが強く感じられます。あな憂目に の効果でしょうか。

    • 山川 信一 より:

      確かに「あな憂目」は上手い言い方ですね。惜しむ気持ちが伝わってきます。そこで、私もこの場で作ってみました。思考時間ほぼゼロですので、出来の程はご容赦ください。「本年も悪しう迷惑被れり香りあるゆゑ恋しかるべし」

  3. すいわ より:

    恋い慕う目に涙ため鶯の花行く先を眺めつるかな

    「うめ」の二文字、思ったよりも難しいですね。

    • 山川 信一 より:

      上手です。「うめ」は難しいですね。それにしても、物名の目的は何なのでしょう?内容にはどうしても無理が生じてしまいます。どこかこじつけになります。表現の訓練でしょうか?

  4. まりりん より:

    灼熱の乾いた畑我願う恵みの雨よ降らせ給えと

    「うめ」漸くひとつそれらしい物を思いつきました。
    色々変なのですが。。

    • 山川 信一 より:

      上手にできています。「うめ」は短いけれど難しいですね。ただ、やはり内容がどこかこじつけになってしまいます。さらに、題との両立は難しいですね。

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