《浪漫的心情》

題しらす 読人しらす

いまよりはつきてふらなむわかやとのすすきおしなひふれるしらゆき(318)

今よりは継ぎて降らなむ我が宿の芒おしなみ降れる白雪

「今から引き続いて降って欲しい。我が家の芒を押し倒し降っている白雪は。」

「降らなむ」の「降ら」は四段活用の動詞「降る」の未然形で、「なむ」は願望(他に対して「~して欲しい」と願い望む)の終助詞。ここで切れる。以下は倒置になっている。「降れる」の「る」は、存続の助動詞「り」の連体形。
雪が降って来た。これまでの降っては直ぐ消えてしまう雪とは違い、この雪は本格的な雪のようだ。わずかに残り秋の名残を留めていた我が家の芒が雪の重みで押し靡いている。それは、枯れ芒以上に真っ白な雪だ。雪が秋を拭い去ろうとしている。本格的な冬の到来だ。もう秋に未練は無い。今からはずっと降り続き、この世界を白く変えてほしい。
冬の始まりの心情である。雪がたまに降る地域では雪は珍しいので、貴重で美しく感じられる。雪にうんざりしている雪国の心情とは異なる。京の都はそんな地域である。滅多に降らない雪が降ると、中途半端に降らないですべてを銀世界に変えて欲しい、その中に閉じ込められてしまいたいと願う。そんな実用主義からは懸け離れた浪漫的心情が歌われている。

コメント

  1. すいわ より:

    白波のように秋風に揺れていた前栽の芒。すっかり枯れ朽ちて虚しさが募っていた初冬、いよいよ雪が降り出した。秋の抜け殻のような芒を押し倒し、降り積る。あぁ、このまま降り続いてあの枯れ芒を穂綿のような白に埋め尽くして欲しい。一面の白い冬。
    降り初めの雪に心躍るのでしょう。雪と共に生きねばならない人達にしてみたら何と呑気なと言ったところでしょうけれど、貴族にとっては季節の変化を実感できる美しいものとして雪は歓迎されるのでしょうね。

    • 山川 信一 より:

      情景描写が見事です。芒に降る雪の様子が目に浮かびます。初冬には、そんな場面がありますね。
      変化に乏しい冬にあっては、雪は詩心をくすぐる貴重な風物なのでしょう。

  2. まりりん より:

    この気持ち、わかります! 私も子供の頃、冬に雪が降ると もっともっと降って積もって欲しい と思ったものでした。雪があまり降らない地域の人にとっては、雪は「非日常」です。それを存分に味わいたいと思う気持ち、今も昔も同じですね。
    枯れ芒と雪、白のグラデーションが、季節が進んでゆく事と重なります。

    • 山川 信一 より:

      人は日常に退屈しているのでしょう。退屈ほど、辛いことはありません。そこで、「非日常」を求めます。何とか日常から抜け出そうとします。旅に出るのも、雪を歓迎するのもそれですね。
      「枯れ芒と雪、白のグラデーション」が季節の移ろいを表していますね。

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