おなし御時せられけるきくあはせに、すはまをつくりて菊の花うゑたりけるにくはへたりけるうた、ふきあけのはまのかたにきくうゑたりけるによめる すかはらの朝臣
あきかせのふきあけにたてるしらきくははなかあらぬかなみのよするか (272)
同じ御時せられける菊合に、州浜を作りて菊の花植ゑたりけるに加へたりける歌、吹上の浜の方に菊植ゑたりけるに詠める 菅原朝臣
秋風の吹き上げに立てる白菊は花かあらぬか浪の寄するか
菊合:参会者を左右に分け、両方から菊の花を出し、それに和歌を付けて、優劣を争う遊び。
州浜:浜辺の入りこんだところや水の湾入したなぎさの形状にならった作りもの。蓬莱山や木石、花鳥など、その時々の景物を設けたもの。饗宴などの飾り物とする。州浜台。
吹上の浜:和歌山県の紀の川口の湊から雑賀の西浜に到る海岸。
「同じ御代なされた菊合に、州浜を作って菊の花を植えたのに加えた歌、吹上の浜の所に菊を植えてあったのに詠んだ 菅原朝臣
秋風が吹き上げ、吹上の浜に立っている白菊は、花なのか、そうでないのか、波が寄せるのか。」
「吹き上げ」は動詞「吹き上げ」と名詞「吹上(の浜)」の掛詞になっている。「立てる」は「立つ」動作が続いていることを表す。「花かあらぬか」の二つの「か」、「寄するか」の「か」は、疑問の終助詞。
州浜がジオラマのように再現されている。吹上の浜と思われる場所に菊が植えてある。それは秋風が吹き上げた吹上の浜に立っている白菊の花なのか、そうでないのか、波が寄せる姿なのか、見分けがつかないほどだ。
菊の花を単に差し出すだけでない。ここでは、州浜まで設え、それに配している。この歌は、その作りと菊の見事さを訴えている。菊は浪に見えてしまうほど、白いのであろう。平安貴族の優雅な遊びが伺える。
コメント
白菊の花の一つ一つが点描画のドットのような効果でムーブメントを感じさせるのでしょう。演出がなんともエレガント。「花か」「あらぬか」「浪の寄するか」このリズムもなるほど反復感があり、波の引いたり寄せたりする様を連想させます。
当時の菊の花は、今よりも小ぶりだったようです。それで、星にせよ浪にせよ、まとまったものとして捉えられていたのでしょう。
「花か」「あらぬか」「浪の寄するか」の反復感が波を感じさせる。なるほど、納得しました。